一 つかれている 4
「ん? なんだ? 俺の後ろにお化けでもいるのか?」
先生が振り返ると、橋本先輩はすぐに私から視線をそらし、矢取道の方へと行ってしまった。
先生でも気安く話しかけれないのか、ただその背中を見守って呟いていた。
「橋本は、高校生とは思えんオーラを放ってるな」
「……そうですね」
……あの人はいつもああだ。
弓道の実力があり、二年生の時に先生から主将への打診があったにもかかわらず断ったという少し変わり者。
学力も学年で一番という頭脳があるのに、進学はしないという。
見た目もとてもイケメンというか、男にしては綺麗な繊細な顔立ちをしていて、あれで陽気な性格なら、さぞかしモテただろうと思う。
それでも隠れファンはいると思う。
この一年、先輩が誰かと親しく話しているところを見たことがないのだが、あの人はそれで楽しいのだろうか?
そんな橋本先輩が、合宿での夜に話かけてくれたのは、奇跡に近かったのではないか――
あんな状況でなければ、私ももっと話せたのに。
そう思う私は、橋本先輩に憧れて弓道を始めた口だった。
団体戦の予選敗退という散々な結果の大会が終わり、私たちは武道館から出て、専用の送迎バスに乗るために駐車場で待機していた。
「ね、リリ、ますます顔色悪くなってるよ? 大丈夫?」
こんなに外は暑いのに、寒気がしてガタガタ震える私を、友達の悠里が心配そうにのぞき込む。
「……やだな、汗かいたから風邪ひいたかな?」
もしかして気怠さや頭痛の原因は夏風邪?
「寒いなら、ほら、ジャージの上着着てなよ」
悠里に肩からジャージをかけられるも、そんなものでは追いつかないほど酷く寒かった。
インフルエンザの寒気より強いかも。
ブルっと自分でも驚くくらい足が震えたまま力入らなくて、ついに地面に蹲ってしまうと、部の皆がこちらを見た。
「おい」
低いけれど、よく通る声が降りてきた。
顔を上げたら、橋本先輩がいた。
「顔、真っ青だ」
逆光で表情はよく見えないが、橋本先輩が私をじっと見下ろしてる。
「少し離れてくれないか」
と、橋本先輩がと、橋本先輩が悠里に言った。
「は、はい」
冷たい視線におののいて悠里が離れると、橋本先輩が私の肩にそっと手を置いた。