男を食らう鬼 10
俺は、逃げられないように、霊の動きを封じ込める護符を取り出し、路地の入口と出口にそれを置いた。
「あなたを苦しめるつもりはないよ」
A子が、行ったり来たりしてるのを見ながら、再び問いかけた。
「あなたを殺したのは誰? そしてどこで事件に巻き込まれたの?」
俺が近づくと、この前のおばあさんの霊のように頭を押さえて痛がった。
「言えないのなら、ヒントをくれ。あなたを殺した犯人を捜したい。そして罪を償わせたい」
そうでもしない限りA子は成仏できないし、あのマンションにも悪い氣が溜まる一方だ。
俺が出口の護符を取り除くと、A子がゆっくりと移動し始めた。
A子の姿が見える人間は俺だけなのか。
誰一人として彼女をよけて通る者はいない。
見えたら間違いなく通報レベルのイデタチだ。
喧騒の街中から少し外れた所に7階建てのラブホテルがあった。まだ夕方だというのに出入りする男女がいて、制服でうろつく俺をジロジロ見ている。
入口前でA子の動きが止まった。
「ここ? あなたが殺されたのは……」
俺の問いには答えないで、三階付近を見上げたまま悲しそうに泣き出す。
「あなたが取った客が犯人なのか? 行為の途中で首を絞められたのか?」
現場で霊視すれば、犯人の顔がわかるかもしれない。
「当時、どの部屋を使ったか教えてくれ」
しかし、A子はゆっくりと首を横に振った。
覚えてない、ってことか?
でも、三階のどこかなんだろう。せめてフロアに行けば視えるかもしれないのに。制服であるために入れない。
「あなたを殺した男は、どのあたりにいる?」
その質問をした直後、A子がスッと姿を消した。
「あ、」
追いかけようとしたら、
「君、高校生だよね?」




