男を食らう鬼 7
俺の問いに反応したのは、おばあさんの霊だった。
虚無な顔をして、ただ、そこに居座ってるだけの無害な霊。
建物と建物の間の湿った薄暗い場所や階段なんかには、こういう霊が溜まりやすかったりする。
「そう、今はここにはいないんだね、どっちに向かったかわかるかな?」
おばあさんが、繁華街の方を指した。
「ありがとう」
無気力な手が、不意に俺の腕に触れた。
――冷たい。
そこから体温を奪われていくのがわかる。
「喉、渇いたの? 水でいい?」
しかし、おばあさんはお酒が良いと言った。
そして、頭が痛いと。
「あぁ、ごめんね。俺の持ってるお札のせいかな」
俺が持ち歩いてる護身用のお札はやはり、それなりに効果があるようだ。
「俺、まだ未成年でお酒、買えないんだよ。おばあさんが生きてた頃と違って法律が厳しくなったんだ。代わりにエナジードリンクで我慢してな」
俺は、マンション敷地内にある自動販売機から、一番量の多い飲料を買って、タブを開けておばあさんの前に置いて行った。
繁華街に向かいながら、リンゴジュースにしとけばよかったかな、とちょっと思った。
繁華街は迷路のように込み入り、そしてかなり広い。
先ほどの泣いていた霊を見つけるのは、なかなか困難を極めた。
なぜ、死んだ場所から離れて、こんな所をさ迷っているんだ?
波長の合った俺を、誘い込んでいるのか?
先ほど少しだけ霊視したマンションの殺人現場から、壮絶な惨殺シーンは見られなかった。
ということは、泣いていた女は、あそこで殺害されたわけではないのではないか――
時間があれば、あの場所での過去の事件を検索し、検証することも出来るが、本来、今日の俺の目的は母のために花を買うこと。
時間は限られていた。




