男を食らう鬼 6
「……ここ、何か事件あった?」
車から降りて、少し近寄るとマンションのある場所に、霊のたまり場を見つけた。淀んだ暗さに加えて、何となく、すえた死臭のようなものも仄かに感じる。
おそらく、これは霊感のある者しかわからないだろう。
しかし、父さんも、あえて見ないようにしてるのか、視線をモール街のほうに向けたまま答えた。
「……何年も前のことなんだけどな。遺体が見つかったんだ。殺された女性の」
「部屋で?」
「いや、非常階段の踊場だ」
「そう」
そこも含めて、マンションの裏側には浮遊霊や地縛霊たちが数体集まっている。
「ま、そんなこと気にしてたらこっちは仕事にならんからな。一時間後を目安にこの駐車場で落ち合おう、じゃあな」
老舗の宝石店へと向かう父さんを見送ったあと、俺は、そのマンションへと近づいた。
気のせいではなく。
女の悲痛な泣き声が聞こえたからだ。
霊を見ても怖さなど感じない俺は、今までも散々、向こうから近寄ってきた。
その度に結界を作り、関与しないようにしてきたけれど――
なぜか、今日は自ら近寄った。
頼まれもしないのに、霊障もないのに、霊のために動くなんて、霊能者でもやらないだろう。
しかし、なんとなく、このマンションから漂う、無念に近い悲壮感を放ってはおけなかった。
俺は遺体のあったと言われる現場の前で、先ほど聞こえた泣き声の主を探した。
そこには、声とは関係のない霊体が蠢いていたので、心の中で尋ねてみた。
″ここで泣いていた人、どこに行ったか知らない?″




