男を食らう鬼 5
* * *
――ちょっと、可哀そうだったかな。
山城リリを振り切った俺は、しょげた彼女の表情を思い出すと、少しだけ胸が痛んだ。
しかし、藁人形くらいなら、その神社で処理ができるはずだし、場所が場所なだけに過去にも同じような事例があったはずだ。
俺の出る幕はない。
それに……。
俺は、家――不動産屋である父――が扱っている物件で、非常に気になるものがあり、それのことばかり考えていた。
なかなか入居者が決まらない、いわゆる、“事故物件” ってやつだ。
先日の日曜日。
俺は父さんと、母さんの誕生日プレゼントを買うために車で出かけていた。
父さんは記念日だとか、クリスマスだとのイベントを一般の父親たちよりも大切にする節があり、この日も、「銀婚式にちゃんとできなかったから」と、プラチナのアクセサリーを購入予定だったようだ。
俺は、きっと、これが母に贈る最後のバースデイプレゼントになると思い、むしろ形に残らない花を買おうかなどと考えていた。
「千尋、この近くに俺と母さんの結婚指輪を買った店があるんだ。一緒に来てみるか? いつかの日のために参考になるかもしれないぞ」
父さんがからかうよな目つきで俺を見る。
今までだって一度も異性と付き合った事ない俺を、(あったとしても教えるつもりは毛頭ない)奥手のシャイボーイだとして心配してることの裏返しだ。
「いつかの日ってなに? それより、俺、角の花屋に行きたいんだ。近くで降ろしてくれる?」
俺はそれをも、淡々とした口調でぶった切る。
「あ、あぁ。駐車場は……あ、うちのマンションの所に停めるか。あそこは空き部屋多いから平気だろう」
「入居者、少ないの?」
「ん。……ワケアリのマンションだからな」
父さんが軽くため息をついて駐車したそこには、ドンヨリとした氣が溜まっていて、真夏なのに冷ややかだった。
息苦しさえ覚える。




