男を食らう鬼 2
頭も良くて、見た目も麗しい。
弓道部での姿しか知らないけれど、おそらく橋本先輩は、運動神経もいいはずだ。
ゆえに、陽キャじゃなくても、 やっぱりモテる。
「ねね、いま、一年生が中庭で告ってる相手、リリの部活の先輩じゃない?」
「え?」
放課後。
加奈が教えてくれて、廊下の窓から中庭の方を見下ろすと、まだ夏の制服が真新しい新入生と一緒にいる橋本先輩の姿を見つけた。
校舎と校舎の間、日陰ができるそこは、昼休みには、中庭で遊ぶ上級生たちの休憩場所だったりする。
二階からは丸見えだが、外では死角になっていて、校内告白場所のメッカだ。
「……なんて告白してんだろーね、″クールなあなたが好きです″ とか?」
橋本先輩と接点のない加奈が知ってるほど、橋本先輩がクールなのは有名。
そんな人に告白するなんて、勇気あるなぁと眺めていたら、その子は突如踵を返して、先輩を置いて走り去って行った。
「ありゃ、撃沈だったんだろーねー」
呑気に観察していた加奈と違って、私の心はザワザワしていた。
可哀想、と思う反面、おそらくダメだったんだろう結果に安心する自分は最低だ。
もし、私が告白したら、橋本先輩は部活でも完全に無視するだろうなぁ。
秋に行われる弓道新人戦と、全国選抜予選に向けて、部では選手が集中して矢を放っていた。
「能動的な離れと残身を取り敢えず決める方向で矢を放って!」
顧問が的中率の良くない部員にカツを入れていく。
そんな中、
「な、千尋が一年生に告られたの知ってるか?」
堀先輩が、順を待つ私にヒッソリと耳打ちしてきた。
「……知ってますよ。噂で」
上から見てた、と言えばあまりに悪趣味だと思われる。
「もう噂になってるのさすがだなー。で、あいつ、なんて言ってフッたと思う?」
そんな事をニヤニヤして口にする堀先輩も悪趣味だ。
「さぁ。″俺に関わらないでくれ″ とか?」
どこの自虐的ナルシストヒーローだよ、と思うようなセリフも橋本先輩なら似合う気がした。
「惜しいねぇ。女の子が、″橋本先輩の12月の誕生日に一緒にお祝いしたいです″ って可愛いこと言ったのに対して、千尋のやつってばさ」
「……、はい」
聞きながら唾を飲み込んだ。
「″その時、俺、この世にいないから″ って返したんだってさ」
「……え」
思わず、大前で矢を放つ橋本先輩の方を見てしまった。




