男を食らう鬼
平安時代には怨霊だけでなく、恐ろしい鬼もいたとされている。
その昔。
源頼光の時代。
※鬼達は、都の人々を食い殺したり貴族の娘をさらったりして、
都中を荒らしまわっていた。
都を騒がすものの正体を晴明が占いによって見破る。
「それは、酒呑童子という鬼の仕業である」と。
そこで頼光の四天王と呼ばれる人々、渡辺綱・坂田公時・卜部李武・碓井貞光 が、
天皇に命ぜられ大江山の鬼退治に行ったという。
この時、安倍晴明六十九歳。
鬼退治には同行せず、都の防衛を担当したという。
以下の話は四天王の一人、渡辺綱が鬼に出会った時のこと。
渡辺綱が、頼光の使いで一条大宮まで行ったその帰り道、一条戻り橋で女に声をかけられる。
実はこの女の正体、「家まで送ってください」と頼んでは、男を食い殺す恐ろしい鬼だった。
「送っていってさしあげましょう」と申し出る綱を見て、我が意を得たりと正体をあらわした鬼。
しかし、綱は鬼を見ても冷静に刀を抜いて鬼の片腕を切り落とした。
後日、綱が差し出した鬼の腕を見て、頼光は当時播磨の守であった晴明を呼び出す。すると、晴明は「綱には、七日間の暇を与えて物忌みをすべきだ」と言って、鬼の手に封印をして綱に仁王教を読むよう指示したという。
法会を開始してから六日目。
綱の義母に姿を変え、鬼は片腕を取り戻しにやってきた。
「どうしても鬼の片腕を見たい」と言う義母の頼みを断りきれなかった綱が、腕の入った箱をあけた瞬間、鬼は正体を著し、自分の腕を取り戻すと彼の破家を突き破って逃げ去って行った。
「当時、本当に鬼がいたのかどうかはわかりませんが、著名な方の本によると、鬼とは、人の醜い心が具現化したものだそうです。鬼も怨霊も、人間の醜い心は、その想いが深くなると時には人間ではない何物かに姿を変えてしまうということ。今ここにいる皆さんも、いつ、鬼になるかわからないのです」
今日の古典の授業では、陰陽師の安倍晴明の名前が出てきた。
生存中に既に神格化してしまった安倍晴明の物語は、いたるところに記述がある。
しかし、彼の陰陽師になる前の話や、結婚、子供の話の後述は少ないという。
――謎。
安倍晴明の子孫が政治家にいるとか、霊媒師にいるとか言われてるけれど、ほんとうのところはわからない。
『除霊と浄霊は違う。ついている霊の魂が鎮まらない限り成仏はできない。しかし、今祓った霊でなくもっと強い霊が来ても、井川次第では寄り付かないし憑りつかないようになる。そのうえで結界を張れば霊障は起きないと思う』
そう言って、悠里の部屋に結界を張っていた橋本先輩のことを思い出した。
堀先輩じゃないけど、あの人、一体、何者なんだろう?
※『大江山絵詞』




