一 つかれている 3
その翌朝。
明け方にようやく瞼の重みを感じ、一時間ほど眠った私は、目覚ましのアラームの前に起き、部屋を出て、恐る恐るあの宴会の間へと行ってみた。
入口のスリッパは一つもなく、襖の凹みも取り替えたのか、綺麗になくなっていた。
『中の人たちは、自分達の部屋へ戻って行ったの?』
昨夜、感じていたイヤな空気は微塵も残っていなくて、そこは清々しいほど普通だった。
私は、ひと呼吸を置いて襖に手をかけた。
しかし、どうしても開ける気にはなれなかった。
「お世話になりましたー!」
部員、顧問の先生と旅館の方々に一礼して宿を後にする時、私はロビー入口のウェルカムボードを見てみたのだが、
【歓迎 都立 南谷高校弓道部様】
団体で泊まっていたのは、私達だけのようだった。
なら、あれは、なんだったの?
もしかして、芸能人のお忍び宴会?
こんな山奥の温泉旅館ならあり得るかもしれない。
この時は、そう思うようにして、深夜の騒ぎのことは忘れようとした。
けれど、その日を境に、私は何から何まで調子が悪くなっていったのだった。
実は、私は子供の頃から少しだけ霊感がある。
ある、と言ってもいつも感じるわけではないし、ハッキリと見ることはない。
しかし、父が神主という仕事に就いているせいか、不思議な体験をすることは多々あった。
お祓いに来た人に憑いていた動物霊の鳴き声を聞いたり、祈祷の際に風を感じたり、あるはずのない人影を見たり。
けれど、こんな “霊障” とも言える不調を感じたのは初めてだった。
頭も痛いし、気怠い、そしてやる気が起きない。
――やはり、あの旅館は何かおかしかった。
「山城はどんな試合でも※皆中、最低でも※羽分け以上なのに。スランプかもしれないな。それともどこか故障しているなら病院に行ったほうがいいぞ」
「はい。ご迷惑おかけしたうえにご心配かけて申し訳ありません。帰ったら……」
その時。
顧問の先生の背後で、じっとこちらを見つめる視線に気付き、ハッとする。
射るような冷たい、鋭い視線――
上品な目鼻立ちだけれど、表情が読み取れない端正な顔。
あの橋本千尋先輩だった。
※ 全て的にあたること
※半分あてること