ひと を 呪わば穴ふたつ 25
先輩が見つめていたのは、部屋のクローゼットと出窓の間にある隙間だ。
つられて私も、そこを見ているうちに、なんとなくぞわッときた。
光が入り込まないからか、昼間なのに暗く感じてしまう。
「祓うってなに? 霊媒師にでもなったつもり? 気持ち悪いこというのやめてよ」
悠里が青ざめた顔で橋本先輩を見た。
「霊媒師ではないけど。お前がまた生霊飛ばして、誰かを苦しめて、それが己に跳ね返ってくるのを手助けしてる霊を一時的にでも追い出すんだよ」
“生霊” と、本人の前で初めて口にした先輩の口調は冷たかったけれど、表情は怒ってなかった。
橋本先輩は、用意していたらしいグラスに、おそらく清水だと思われる透明な液体を入れて、淀んだ所へ榊と一緒に置いて、その水を辺り一面に振りかけた。
――もし。
橋本先輩が、陰陽道を心得てる人なら……
私が映画や漫画で見た、有名なあの呪文を唱えるはずだ。
――臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前――
陰陽道だけでなく修験道等でも基本的に「護身」用の呪文として使われていたという呪文。映画の中では、この九字を唱えるだけで、結界をはる事ができて自分自身の身を守る事ができるようだった。
しかし、橋本先輩は――




