ひと を 呪わば穴ふたつ 23
それにしても、知らなかった。
悠里に好きな人がいるなんて。
部活では一番仲良いし、それなりに色んな話をしてきたけど、私は、悠里にとってはそんなに重要な友達じゃなかったのかな? と少しだけショックだった。
「ちょっかいって、朝美はわりとどんな男子とも話すじゃない? だから人気あるっていうか……」
それが気に入らないっていう女子の話も聞いたことはあるけれど。
悠里は、目を吊り上げて答えた。
「クラスでも仲良い男子だった。でも、朝美が声をかけるようになってから、私のことシカトするようになった……」
″絶対に、知らないところで、私の悪口吹き込んだ″
「……――」
元からあった歪みが、憶測かもしれないことを恨みに変えたのか。
「……だから、あんなことしたの?」
生霊は無自覚だろう。
でも、呪いは、明確な意思がある。
「……そうだよ。中学の時から、ずっと私の大切なもの壊してきたんだ。その分、朝美が苦しむようにって、すべてを無くしますようにって……ネットで調べた呪いの方法でお手軽なやつ試したの」
お手軽……。
それでも、きっと効果があった。
「髪の毛は、どうやって手に入れたの?」
尋ねる私の声は震えていた。
「髪の毛は、朝美の行き付けの美容室に同じ日時に予約して、隙を見て拾ってきた」
「そこまでして……」
「そうだよ! そこまでやんなきゃ、あの女、わかんないんだよ。だってそうじゃない? ずっとチヤホヤされただけで、なんも苦しまずに生きてたくせに、何で高校のレベル下げてまで私の人生に絡んでくんのよ? いい加減、あの女との縁、切りたかった。友達のふりも辞めたかった、あいつさえいなきゃって、いっそ苦しんで自殺でもしてくれればにいいのにって……」
髪の毛に念を込めて、縁切りで有名な寺院に埋めた、と、悠里は誰かに操られてるみたいに話した。
その顔は、別人みたいだった。
「じゃあ、もう満足? 朝美が飛び降りて、大怪我して。もしかしたら、もう普通の生活できないかもしれないんだよ?」
噂では、下半身が付随になるかもしれない、と。
華やかな生活を送っていた女の子の人生が、もしかしたら、一人の人間の怨念だけでこうも狂わされたのだとしたら――
悠里は、首を横に振った。
「あの女、絶対に復活してくるから。今度は悲劇のヒロインの顔をして。昨日、病院で早速インスタ投稿してたよ。″友達のありがたさ、命の大切さ、身に染みた″ って。良く言うよ、どんだけ太い神経してんのかって」
「……――」
私は、瞼を閉じた。
いま、話してる悠里は、″悠里 ″ じゃない、そう感じたからだ。
きっと、また、繰り返す。
そして、今度は、悠里が大変な目に遭う。
そんな気がして、私には、無理だと思った。
私程度の浅い友情を持って接しても、悠里の中の黒い渦を消すのは不可能だ、と――
「お話、そろそろ終わった?」
その時、ドアを静かに開けて橋本先輩と堀先輩が入ってきた。




