ひと を 呪わば穴ふたつ 16
しかし、
《先輩、うちの場合、初祈祷料は二千円からですよ》
料金の心配をする俺を、山城がおかしそうに笑った。
《それに、悠里も朝美も私の友達だから、先輩が気にすることはないですよ》
良心的な神社であることにホッとした俺は、彼女の家に連れて行ってもらうことにした。
「一応ね、のし袋に入れて、初穂料とか玉串料って書かないとダメなんだって」
自分の家だが、社務所に声をかけた山城がどこからかのし袋と筆ペンを持ってきて俺に渡した。
書いた袋に、堀も合わせて、一人千円ずつ入れる。
拝殿に入る前に身を清める意味でお手水する。
御社殿に通され、三人で正座して待っていると、御幣の紙垂を持ち、神主の装束を纏った男性が現れる。
山城リリの父親だろう。顔がそっくりだ。
烏帽子、白い狩衣。
まるで平安京からやって来たかのような神主の姿に、俺一人懐かしさを覚える。
現世では、なかなかお目にかかれないから。
「呪いを祓ってほしい、ということですが、身に覚えがあるのですか?」
神主が目の前に座って、まっすぐに俺を見て尋ねた。
「呪いをかけられたのは俺じゃないです」
こういう説明は苦手だ。
「あ、あのね! 私の同級生に生霊が取り憑いて、おまけに髪の毛で呪いかけられてるみたいなの」
山城が、父に、寺院で見つけた髪の毛と十円玉が入ったペットボトルを差し出す。
「本人から預かったのか? なぜ当人は来ない?」
訝しげに首を傾げた神主は、今度は堀を見た。
「本人は呪われたのも知らずに追い詰められて飛び降り自殺図ったんですよ! かろうじて助かってますけど、また何があるかわからない。何とかしてあげてください!」
こういうのは熱い男から話したほうがいい。
「うむ」
半信半疑な様子でペットボトルの髪の毛を見つめた神主は、ゆっくりと立ち上がって祈祷の準備を始めた。




