ひと を 呪わば穴ふたつ 15
ブツから随分と邪悪な気が減ったと思った時、堀から電話がかかってきた。
《千尋! お前、いま、どこにいるんだよ?》
「寺院……」
《どこの?!》
「山城に代わって」
《かぁっ!シカトかよー。ほら、山城、パーフェクトマンの千尋が代われってよ》
呪い返しではなく、完全に祓うためには祈祷が必要だ。
長野朝美本人が受けた方がいいのは間違いないけど、重症で入院してるなら無理だ。
《あの、先輩、お寺で何してるんですか?》
スマホから緊張した山城リリの声が聞こえた。
「長野朝美の呪われた髪の毛を見つけた」
《えっ、えっ、まさか藁人形?!》
「似たようなもんだ。これを完全に祓いたい、それで……」
君の家にお願いできないかと頼むと、山城が返事を渋った。
《私の父は神職ですが、霊能もありませんし、霊媒もできません。形だけなんです》
これが彼女の渋った理由だった。
驚いた。
自分の家のことなのに、まるっきり“神道” というのがわかっていなかったから。神職は神に仕えるものであって霊能力者である必要はない。
神道による祓いの所作は、自然が持つ力を借りて行なうことだ。また祓いは、神主が、短的に言えば神に「お願いしている」に過ぎない。
これを短時間でわかってもらうには限界があり、
「儀式をすることが仕事で「形だけ」ではなく「形」が必須なんだ」
そう言って再度頼んだ。
ただ、神主の娘だからといって簡単にいかないことはわかっていた。
たとえば、祈祷の際には神社でも使う大きな和ロウソクを使用する。これは概ね1本五千円ほどする。
祈祷中、灯明は絶対に消してはならないし、祭壇に一対に二本を灯しても、一日かかれば八本は消費することになる。
これを、依頼者が払うのだが、俺にはそんなお金はない。
山城の熱意と神主の善意に頼らざるをえなかったからだ。




