ひと を 呪わば穴ふたつ 13
父なら、……安倍晴明なら、この和紙が鳥となって、呪いのブツの在処へと導いてくれるに違いないが――今の俺には、多分、そんな力はない。
校舎を出てすぐに、風にその和紙を乗せ任せた。
「千尋、こんな時に何遊んでるんだよ」
俺の前世など知らない堀が、呆れてその様子を見守っていたが、山城リリは、風に舞う白い紙を眩しそうに見上げて言った。
「形代……擬人式神」
俺は、ハッとして彼女の方を見た。
夕陽を含んで、薄茶になった瞳が舞っていく紙を追いかける。
――この目……。
――この人は――
あれはいつだったか、藤原氏ゆかりの寺、東北院の念仏会に集まり、歌合が行われた時のこと。
総勢10名の職人たちを左右に番い、経師を判者として花と恋を題に詠み競ったことがあった。
参加したのは貴族ではない。
医師に陰陽師、鍛冶、大工、博打打ち、巫女などのいわゆる職人たちだ。
雅な貴族の伝統的な形式のみを真似て、左右それぞれ向き合って座った。
その中に、“彼女” がいた。
俺の真向いだった。
長い黒髪を後ろで1本に束ね垂髪にし、白衣に緋袴を纏った彼女は、矢を放つ時の、現世の姿とあまり変わらない。
巫女である彼女は、現世よりも霊力があり口寄せもしていて、雨乞いのための占いもしているようだった。
俺と彼女は初対面ではなかった。
前年の花見の時もこうやって詠みあった。
時々、職人たちと、既存の有名な歌をパロディにして詠んだり、互いの技を見せあってたり、終始和やかな雰囲気で会を終えてたような記憶がある。
のちにこれが名の知れた歌集として史上に残ったかは定かではない。
特に中世の巫女は神がかりをして和歌を詠んだ。
これがおみくじに和歌がある理由だ。
そんな巫女である彼女が詠んだ歌は、
『こぞ(去年)の春逢へ君に恋ひにて 桜を思ふと よいも寝なくに』
有名なものを二つ組み合わせた、けして上手いとは言えない歌だったが、それが自分への恋文であると気が付いたのは、彼女の目線や態度で一目瞭然だったからだ。
それに、俺が返した歌とは――
――――
「橋本先輩が飛ばした和紙、鳥が咥えちゃいましたよ!」




