新世界 6
それにしても、このロボは誰のデータをもとに作っているのだろう。
この顔も見たことあるような気がする。
「さっきの、歌……もう一度歌ってくれませんか」
雪の中でブランコを漕ぐ中年ロボットにお願いしてみる。
「そんな何回も歌うようなもんじゃないわよー」
きさくな言い方も、なんとなく覚えがあった。
「じゃ、歌詞をの意味を教えてください」
人間ならそこまで考えないけど、AIなら答えられるだろう。
「日本語と古代イスラエル人やユダヤ人の言葉であるヘブライ語訳のほうが意味深よ」
おばさんロボが教えてくれた。
(かごの中に入って居られるお方)
(かごの中に隠れて居られるお方)
(いつ出てこられますか)
(5次元になる 寸前に)
(我良し 金まみれの鶴と鶴の部下で働き金を得る亀が倒された)
(後ろの正面 宇宙創造神 天照大神様)
―― ″いつ、出てこられますか?″
誰の事を言ってるんだ?
天照大神様って誰だ。
今でもどこかに隠れているのか?
もしかしたら、救世主でも現れるのか?
「誰かが出てくるのを待ってる歌なんですか?」
たぶんね、と答えるおばさんロボの隣のブランコに腰を下ろしてみる。
「……」
とても冷たくてずっと座っていられるようなものじゃない。やっぱり、ロボットと人間じゃ感覚が違う。
「死海文書で、”ユダヤの救世主が日本から現れる” ことで世界が生まれ変わるって言われてたんだけど、現れなかったわね」
「予言が外れたってことですか?」
「さぁ。世界を牛耳るアシュケナジー・ユダヤ人に存在を隠されてるのかもしれないわね」
「救世主って、いつ頃って話だったんです?」
「たしか2018年か2020年だったと思うけど」
疫病が流行る前か。
「じゃあ、もう世界は変わらないんですね。人間が奴隷みたいになったこの世界は……」
人間よりもピラミッドの上にいるAIにこんなこと言ってもしょうがないけれど。
「そうでもないんじゃない?」
おばさんロボが首を傾げて俺を見た。
「そうでもないって……?」
俺も、AIロボのガラス玉のような目を見る。
「偽ユダヤ人にずっと神の称号を奪われてきた、日本古来から続く血筋って、今も温存されてるでしょう」
――あ。
それってまさか。
「もしかしたら裏に本物がいるかもしれない、神から生まれたとする “あの人たち” は、どんなに宗教や信仰が禁止された今でも生かされてるでしょう」
――天皇家のことか。
「キリストが生まれた紀元前よりも、さらに古い時代から日本にいて変わらない血筋といえば、ね? その次期天皇が滅亡から地球を救うかもしれないって考えるのは健全なことだわ、もしくは昔、消された政治家とかね」
政治家……。
一体、誰の事?
「消されたなら、もう救えないでしょう」
「クローンができる世の中ならまた蘇らせることも可能じゃないの」
「……そうですね、でも」
クローンなんてそれこそ上だけが持つテクノロジーであって、奴隷層には果てしなく遠く、届かないものだ。
しかも、俺のように今の世の中に違和感を持つ人間はほぼいない。
この管理社会が当たり前だと洗脳されてるからだ。
「何千年も前から、日本の″神″、すなわち天皇家を守るために存続し続ける秘密結社があるのを、あなたは知ってるかしら?」
今度は逆に投げ掛けられた。




