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転生陰陽師は呪詛をしたくない【仮】  作者: こうつきみあ(光月 海愛)
エピローグ
222/225

新世界 4

 ずっと眺めていたせいか、黒髪のロボットが俺の方を振り向く。


「こんばんは。私の顔に何かついてますか?」


「……目と鼻と口が付いてますよ」


 今時、誰も言わないような冗談が口から出て、自分でも滑稽で恥ずかしくなった。

 これも前世での記憶だと思いたい。


 ロボットの前髪がゆっくり揺れて、「あはは、面白いですね、おにいさん」と、いかにもロボットという感じで笑った。

 そこだけ不自然だろう。


「ママぁ見て、お星さま、かいたよ!」


 向かい側の席に座る小さな子供が、くもった窓ガラスに小さな手で星の絵を描いて母親に見せていた。


「汚いからやめなさい」


 母親が子供の手を携帯低周波器で消毒している。

 その様子を俺と同じように眺めていた黒髪ロボットが、ポツリと、言った。


「五芒星……」


 俺は、ハッと隣を見た。


「陰陽師……」


 黒髪ロボは、現代では誰も口にしないことを呟いた。


 世界中において、魔術や宗教や神道は危険因子だとして廃止され、日本中にあった神社や寺院、墓地も壊されている現代。


 当然、晴明神社もなければ五芒星や陰陽師のことを知ってる者はほぼいない。

 なぜ、このロボットはそんな事を?

 このAIは、一体誰の脳のデータで動いてるんだ?

 そして、俺は、その人を知ってるのか?


「……っ」


 考えれば考えるだけ頭痛がしてくる。

 こんなことは考えるなと、()から言われているようだった。


 黒髪ロボは、次の駅で降りて行った。

 俺は、治まった頭痛に安堵の息を漏らして、窓の外を見た。

 雪は酷くなっている。

 まるで桜吹雪のように満月の夜空に舞っている。

 桜……。

 満月。

 死。


 あぁ。

 そうだ。

 平安時代に陰陽師にかけられた呪いは、どうなってしまうのだろう?


 ほぼ肉体が死ぬことのない現代において、その呪いは有効なのか。


 不意にそんな事を思った。


 多分、俺は、死ねない。

 トランスヒューマニズムが進み、高齢者も半機械として働く世の中で、サイボーグでもない健全な若者は、けして死なせないのが現代だ。

 死にたくても死ねない。

 なので、今のご時世、自然死はゼロに近い。


 電車を降りて、一人住まいのマンションに向かう。

 仕事と同様、住居も国が決める。

 国民主権という憲法条文は、とうの昔に改憲を機になくなった。


 義務教育が終わると、子供は国が引き取り強化された監視の中で管理する。

 両親とは何年も会っていない。

 今では、″家族″ という定義もあやふやなのだ。





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