新世界 3
人間に近いと言っても、やはり言葉はどこかオカシイところもあり、違和感もある。
「ああ、そうだね。近頃は心に穴を持ってる人間が多くて、カウンセリングの予約は1ヶ月先までみっしり詰まってるよ」
カウンターに置かれた珈琲と、ヒレカツサンドを手前に引き寄せながら、AIウェイトレスにこたえる。
このヒレカツサンドは、3Dプリンターで作った人工パンと肉を使った料理だ。
現代に野菜というものは存在しない。
第三次世界大戦で一部地域に核攻撃を受けた日本。
土壌は汚染され、まともな作物はあまり取れない。農家自体が日本からは消滅しつつあるのだ。
「心に穴……?」
AIウェイトレスが首をかしげて、頭に手を置く。
ロボットの認識。
心は胸になく、脳にある。
「そう。偽物や虚構だらけの世界で、人間として生きていることが悪なのではないかと思い悩む人が増えている」
俺は、人工豆で作られた珈琲を啜って、店内を見回した。
店内には、客としてAIロボもいるが、中国人や韓国人、ベトナム人などの移民も多い。
今の日本、純粋な日本人以上に人権を尊重されてるのがAIロボであり、移民なのだった。
新世界に国境はない。
土地は日本だけれど、日本ではない。
大戦で敗国となった日本。
北海道はロシア領土となり、沖縄は韓国領土に、関西・関東の一部は中国領土だ。
それゆえ、日本人は劣性な人種として逆に差別されている。
心を病ませていく日本人が多いのは当たり前だった。
軽い食事を終えてカフェを出る。
吐く息は白い。
冬。
僅かに雪。
今年は一段と寒い。
昔、誰かが地球温暖化とか言ってたらしいけれど、あれも事実とは違ったようだ。
地球は今、氷河期に向かって年々気温が下がっているのだった。
駅の改札口は、マイナンバーカードか体内に入れたマイクロチップがあれば通れる。
運転士や乗務員がいない無人電車は、あまり混んではいない。
車内の電子掲示板は、中国語と韓国語、ロシア語で大きく表示され、日本語はホントに気持ちばかりの大きさで見えない。
――ここは、どこの国なんだ。
日本人にとってはかなり住みにくい。
軽く息をついて、隣に座るAIロボをチラリと見る。
日本人女性の顔をしたロボット。
まだマシ。
目が細くて、睫毛が長い。
小さな鼻。
薄い唇。
黒髪。
俺は、このAIロボットの顔をどこかで見た気がした。




