悪と悪42
一年ぶりに見た堀先輩は、高校の時よりも更にチャラい風貌に変わっていたけれど、顔は引き締まって、″大人の男性″になったなという印象だ。
「今日、お前の友達の加奈ちゃんに会って、ここで働き出したって聞いたから顔を見に来た。てか、珈琲飲みたいんだけど」
堀先輩と加奈は同じ大学。
「そうですか、じゃあ、今、空いてるんで中にどうぞ」
「ん」
用があるならラインや電話で済むはずなのに。
こうやって直接会いに来るってことは……。
私は、カウンターの卓上カレンダーを見て、刹那、目を閉じてから堀先輩の注文を訊いた。
カフェラテを頼んだ堀先輩は、お金を払って店内をキョロキョロ見回す。
「ここ、男っ気ない店だよなぁ」
「店長は男ですよ」
「いや、それは対象外だろ」
奥で豆の準備をしていた店長がジロリと此方を見た。
「何の対象……?」
「恋愛の」
「お待たせしました」
おかしな事をいう先輩に、ドン!とちょっと不機嫌な顔をしてカフェラテを差し出す。
内心はそんなに怒ってはいない。
次に出る言葉がわかってるから、あえてそんな顔をした。
「……もう、一年じゃん。山城も新しい恋してもいいんじゃね?」
――ほら。
受け取りながら、元々垂れぎみの目に哀愁まで漂わせて、堀先輩が私を心配そうに見る。
「まだ、一年です」
私は瞼を下ろし、一年前に見た橋本先輩の遺影を思い出した。
およそ一年前。
橋本先輩は、地方にある国立大学の生物工学科に合格した。
地方といっても東京から車で一時間弱、電車で五十分という距離だったのだが、その通学時間がもったいないと、寮に引っ越すことにしていた。
他の先輩は、殆どが都内に進学していたのに、よりによって好きな人が引っ越してしまう。
聞いた時、とても寂しくなったのを覚えてる。




