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転生陰陽師は呪詛をしたくない【仮】  作者: こうつきみあ(光月 海愛)
八 サヨナラ fourth
211/225

悪と悪 39

 見入っている間に、空がすっかり暗くなった。

 あまり遅くなると山城の両親が心配をする。

 お菓子と御守りの礼を言って、


「そろそろ帰るか。この時間ってバスあるのか?」


「……はい、あります」


 俺がベンチから立ち上がっても、山城は腰を上げない。


「どうした?」


「……」


 暗がりで良くわからないが、なんだか、また泣きそうな顔をしてるように見える。

 ややうつ向いて、モソモソと何か言っている。


「なんだよ……? もっと大きな声で話せよ」


 女の子と付き合ったことがない俺は、女心が全くわからない。ゆえに、ハッキリと言ってくれないと、どう動いていいかわからないんだ。


「……なら……」


 顔を上げた彼女は、今度は躊躇いを放り投げていた。


「橋本先輩は、いい加減、私の気持ちに気がついてますよね?」



「……気持ちって」


 経験はない俺でもわかっていた。


 ″私は、好きな人とキス以上のことしましたもん″


 あの島で、彼女が俺を見て言った時に気が付いた。

 いや、それより前から、何となくわかっていた。


「知ってるうえで、こうやって私のワガママに付き合ってくれるって、それはただの優しさからですか? それとも同情ですか?」


「同情ってなんだよ」


 座っていた山城が、拳を握りしめたまま立ち上がる。


「……なに、その手で俺を殴るの?」


「殴ってもいいくらいのこと、先輩、私にしましたよね?」


 ――あ。


 と、また、島での事を思い出す。

 あの時。

 薬を打たれたフリをして、儀式の真似事をしながら、彼女のドレスの襟を引き下げ、キスをした。

 あんな時なのに、白い素肌と柔らかな唇の感触に気持ちは昂っていた。

 思い出しただけでまた顔が熱くなってくる。

 

「……すまない。でも、あの時はそうするしかなかった」


 俯き加減で謝る俺の顔に、ふわりと白い手袋が襲ってきた。


 ひっぱたかれるかと思ったのに、二つの手袋は俺の頬を挟んで包んだまま動かずに、俺を見上げる山城と目が合った。


「同情や謝罪が欲しくてこんな話をしてるんじゃありません。私は、先輩と両想いになりたいだけです」



 両想いに……。

 山城のハッキリとした高い声が頭の中で何度も反芻される。


「そんなこと……」


 俺は、思わず笑ってしまった。


「そこ、笑うところですか? 私、ものすごく勇気出して言ったんですけど?」


 俺の顔を解放した彼女の手が、今度はポケットから出した、護符を手のひらに乗せて俺に見せた。


「紫音さんに貰った、″願いが叶う護符″。これに私、両想いになれますようにってずっと念を込めてたんですよ?」


 そう言って、大事そうに透明のラミネートに包まれたそれを胸に抱き締める。

 護符にそんな事を願うなんて、女の子だなって思ったけど、


「お前、護符って人に見せたら効果なくなるんだぞ?」


「えっ」


 良くわかってない彼女は、急に慌てふためいた。


「どうしよっ、え、もう私、可能性ゼロですか?」


 今さらポケットに仕舞って落ち込む、彼女の小さなつむじを見て、愛しく思った。


「可能性もなにも、もうとっくにその願い叶ってるから」


 とうとう、言ってしまった。










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