悪と悪 35
実際に、あの無人島で起こった拉致や殺人等の犯罪はメディアではけして報道されない。
ネットでいくら拡散されても、″デマ″ や″陰謀論″ 扱いをされて、テレビだけを観てる人間からしたら″妄言″ にしか過ぎず、現実としては捉えてはくれないのが現状だった。
「試合終わったら打ち上げありますね、橋本先輩も行きますよね?」
閉会式前に、山城に尋ねられ、「どうしようかなぁ」と答える。
今までそういった類いの集まりにはなるべく行かないようにしていたから。
「何、悩む必要があるんだよ? 三年生最後の試合だったんだぞ? もう、弓道部全員で集まることないかもしれないんだから。俺に権限ないけど参加。強制参加!」
「……わかったよ」
堀が珍しく強気で押すから、行くことにした。
「良かったぁ」
喜ぶ山城の背後で、応援席から、聞き覚えのある声がいくつも飛んできた。
「や、山城さぁん!」「個人準優勝おめでとう!」「こっち向いてぇ」
オカルト研究部の原田たちだった。
スマホ片手に手を振っている。
「リリのファンクラブ、なんか濃いね」
「地味専なんだって」
「へぇ!!」
山城の友人の井川悠里が珍しそうに応援席を眺めていた。
何人かの保護者も混じっての夜の打ち上げ。
某焼き肉チェーン店を貸しきってのイベント。
顧問の挨拶のあと、堀の両親が皆の前で例の件の詫びと礼を言った。
けれど、俺達が体験した凄まじい犯罪とはかけ離れた、「外国人グループによるトラブル」と事を説明していて、もしかして、堀の家にも何らかの圧力がかかってるのかな、と思ってしまった。両親公務員だし。
「この度は娘が千尋くんにお世話になりまして」
山城の父が、俺の父親に頭を下げているのを見た。
「い、いいえ。なかなか無愛想で堅物な息子ですが、何かと仲良くさせて頂いて」
おかしな挨拶。
俺らがラブホから出てきた件を知ってる保護者は何やら冷めた目で見ていたが気にしない。
食事もそこそこ、コーヒーを取りに行っていた俺を、山城が呼び止めた。
「橋本先輩」
「……ん?」
振り向けば、山城の持ったトレーには、プリンアラモードにケーキ、果物、ゼリーのスイーツがてんこ盛りだった。
「良くそんなに食えるな。太るぞ」
「過去最高の成績を残した自分へのご褒美です。きっと、こんなこともうないので」
「そんなことないだろ。来年は優勝できるよ」
山城がちょっと恥ずかしそうにしている。
「……あの、私、先輩からもご褒美が欲しくて」
「え」
急にモジモジしだす。
「……何か欲しいもんあんの?」
素っ気なく返しながらも、何故か耳から熱くなっていった。
「……はい。橋本先輩の時間が欲しいです」
「時間?」
お互い、元々座っていた席から離れて角の空いてるテーブルにトレーを置く。
「その……もうすぐ、先輩の誕生日じゃないですか。その時にお祝いしたいな、と思って……勿論、おうちでお祝いすると思うので、学校帰りとかのほんの少しの時間でいいんです……」
顔を真っ赤にして誘う山城は、まるで泣いてるみたいだった。
「千尋ー、後輩泣かすなよー」
ほら、見ろ。
堀が早速からかってきた。
「俺は、山城の誕生日とか祝ってないし、気を遣わなくていいよ。それにご褒美貰うの俺じゃ意味なくない?」
俺は、こういうのに慣れてないから、つい、冷たく言ってしまった。
「意味なくないことないです」
モジモジしてたかと思えば、山城が急に強気になる。
「私の誕生日、一月なんです。それも合わせたお祝いで先輩と一緒にケーキ食べたいです」
ケーキ……。
今、目の前にあるトレーてんこ盛りのスイーツだけじゃ食い足りないのか。
良くわからないが、そんなに食べたいなら付き合ってやろうと思った。
「いいよ。なるべくクリーム少なめのケーキにしてくれたら助かるけど」




