悪と悪 32
家に帰れば、母さんと父さんからの質問攻めだった。
「連絡もしないで、丸二日もどこに行ってたの? !」
「最近、行動がおかしいぞ!」
「スマホ、なんで繋がらなかったの?!」
「おまけに何でそんなスーツ着てるんだ? 影でおかしな事してるんじゃないだろうな?」
滋岡から借りた仕立てのいい、どちらというと派手目のスーツも怪しく見えたのか、上着を剥ぎ取られ、ついでに包帯に気が付いた父さんにシャツを脱がされる。
「……いったい、何があった?」
滋岡の家で体を浄めたとはいえ、どこもかしこも傷だらけで、肩の弾痕を見た途端、母さんが泣き出した。
「……きっと、朝から堀くんが無事保護された件と関係あるのかもしれないが、あんまり俺達の寿命を縮めさせないでくれ」
父さんが弓道部の保護者グループから来たラインを俺に見せた。
《《<->》》
【ご報告
三年生の堀 賢吾くんが敦賀港で保護されたとご両親より連絡がありました。無事、事件は解決されました。捜索に尽力してくださった保護者さま、部員の皆様、ありがとうございました】
「……堀は、世界ぐるみの拉致犯罪に巻き込まれてたんだ」
「しかし、それももう解決した。千尋も恐ろしい事は忘れなさい」
簡単な″事件解決″のメッセージを見て、本当はそうじゃない、何も解決してないって大声で言いたくなったけれど、子供のように鼻の頭を真っ赤にさせて泣く母さんを見たら出来なかった。
「……わかった。心配かけてごめん」
「とりあえず何か食ってから病院行くか」
父さんが泣き続ける母さんの代わりに、冷蔵庫から卵を取り出して料理をしようとした。
「お腹減ってない……それより、実はお願いがあって」
「なんだ?」
父さんと母さんが顔を見合わせる。
「今さらだけど、進学、したいんだ」
これには、両親が絵に描いたように、顔を歓喜に綻ばせていった。
「そ、そうか! やっと進学する気になったか?」
「あんなに勧めても何にも興味がないって言ってたのに。で、大学で何を勉強したいの?」
興味深そうに、母さんの細い眉毛が大きく弧を描いた。
まだ、深く考える前の咄嗟の発言だったものの、俺は、頭の中に浮かんだ【遺伝子組み換え】という言葉から将来、何をしたいか、少しだけ見えてきていた。
「バイオテクノロジー」
生物工学。
「バイオ……? 農学部ってこと?」
「それでもいいし、理工学部でもいい。俺は、バイオ技術者になりたい」
「なんでまた……」
理由は一つ。
山城が打ってしまった薬物のことを詳しく知りたい。
『いずれ何らかの理由をつけて、これを全人類に投与しようとしてるね』
死んだ比良が言っていた、その時が来るまでに、打ってしまった人間がどうなってしまうのか、どうやったら遺伝子書き換えを阻止できるのか調べたい。
……できるのかはわからないけれど。




