悪と悪 21
《あれが元財務大臣の所有する海洋調査開発船、そして、隣に大陸からの密航船が停まっているみたいです》
すっかり体調を戻した滋岡は、時々自分の顔も入れながら、島に着岸した【らせんまる】の姿も映し出す。
しかし、肝心のデッキ後部の八咫烏のロゴは映さない。
なんでだ?
《あの潰れたトラックには子供が乗っているようです、この島で何がいったい起こったんでしょうか?》
滋岡が俺達が乗っているトラックをアップで捉える。
「おーい!! 助けてくれぇー!」
原田と堀が大きく手を振る様に、視聴者が反応した。
【やば! なんでこんな所に子供いんの?】
【あれ、どう見てもタレントじゃないよな?】
【荷台のシート! あの下何入ってんの!? 遺体!?】
【まさかヤス?】
【ちょ、待って! 林の方! 外人死んでない!?】
アレスタやケンの遺体が映し出されたのかと、俺達も夢中になって動画を見ていたら、
《あなたたち! 後ろ!》
紫音さんの叫ぶような声がイヤホンから漏れて、ハッと後ろを振り返った。
二人の中国人の男が、舘さんと俺に襲い掛かってきていた。
運転席の舘さんを引っ張り出そうとする男、そして荷台の俺の首を掴み、絞めようとする男――いや、違う、これは、
「“猿、調子に乗るなよ”」
この口調――。
男に、死霊になったアレスタが乗り移っていた。
目の焦点の合わない中国人の顔が、まるっきりアレスタだった。
グッと俺の首の血管を締め付ける。
「“死ね”」
――……待て。
お前を殺したのは比良だろうが、なんで俺の前に化けて出てくるんだよ!
「止めて! 先輩から離れて!」
山城と堀が、上から男の背中や肩を叩くもビクともしない。
原田は荷台から飛び降りて舘さんを襲う敵にスタンガンを当てて助けている。
舘さんが反撃に出て、例のチョップで敵を気絶させた。
「……ぐ……」
一方、俺は、馬鹿力プラス死霊の力で首が折れそうなほど絞められて意識が遠のきそうになっていた。
どこからともなく、まるで、あの世からの誘いのように女性の声が聞こえてきた。
《掛けまくも畏き 伊邪那岐大神 筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に禊ぎ祓へ給ひし時に 生り坐せる祓戸の大神等 諸々の禍事・罪・穢 有らむをば 祓へ給ひ清め給へと 白すことを聞こし召せと恐み恐み》
無線機から漏れる紫音さんの声だった。
「邪気を払う白魔術、祓詞だ」
舘さんも紫音さんが言ったそれを唱え始める。
アレスタの妖気が少しだけ緩んだ。
《前世巫女だった貴女も一緒に!》 「……え、は、はい」
紫音さんに促され、山城も祓詞を唱え始めた。
「かけまくも かしこき いざなぎのおおかみ つくしの ひむかの たちばなの おどの あわぎはらに みそぎはらえたまいしときに あれませる はらえどのおおかみたち」
山城の唱えるそれは、大人たちに比べればたどたどしい。
それでも彼女は言えている。
やっぱり、本能なのか。
繰り返される三人の祓詞で、邪気が消えて行く。
男の手の力が弱まったところで、舘さんがチョップをかました。




