悪と悪 18
エアバックは作動しなかったようで、衝撃で頭を前後に打ちつけた。
皆は、落ちたりしてないだろうか?
潰れた車体から降りようとドアに手をかけたら、すぐ真横に銃口があった。ヒヤリとした感触が俺から体温を奪う。
「猿の隠し芸、終わり」
アレスタだ。
このまま頭を撃ち抜かれると思ったら、引きずり下ろされた。
見れば、追いかけてきた四駆車には、比良とケンも乗っている。
「ガキども、見ておけ」
「おい……止めろ!」
血だらけの舘さんが、掠れた声で叫ぶ。
車から降りてきたケンが、荷台の子供達に被せたシートを思い切り捲った。
「世界の終わりには、東の国から救世主が現れるとか抜かしやがってるが、それは絶対にこの日本じゃない」
アレスタが意味不明なことをいいながら、子供達から見える所に俺を躓かせ、再び銃口を当てる。
「なんにせよ。日本人ってさ、しぶといよね?」
逆光のせいか、引き金を引くアレスタの目は、青さを通り越して黒く見えた。
「″原爆二個も落とされても、リーマンショック起こっても、巨大な人工災害に何度襲われても経済破綻しないし、死に絶えない″」
再び、アレスタの背後にいる霊が話し始める。
「″日本人の持つYAP遺伝子は絶滅させなければいけない″」
遺伝子?
死が迫る中で思い出す。
前にアレスタの背後にいた霊が俺に視せたもの。
“Ý”という文字。
アマテラス。
イエス・キリスト。
キノコ雲。
墜落した三角形の未確認飛行物体。
大津波。
あれのことをまた言っているのか?
まさか、過去の大地震も人間が故意に起こしたものとでも言うのか?
何故、そこまでする?
アレスタは、いや、この人種は、なんで日本人がそんなに憎い?
「俺達の邪魔する奴、特に猿が出しゃばるのは反吐が出る」
死ね、イエローモンキー、と最大級の侮蔑の言葉を吐きながら、引き金をいっぱいに引いたアレスタの頭が吹っ飛んだ。
――え……?
俺の顔に血沫がかかる。
目の前で倒れていくアレスタ。
恐る恐る顔を上げたら、細長いシルエットが俺を見下ろしていた。
メガネが神々しいまでに光る。
――比良……。
「俺の獲物だって、何回言ってもわかんないんだ、このアシュケナジー系ユダヤ人」
連中の従順な手下ではなかったのか、比良の手にはアレスタが持っていた物より大きな銃が握られていた。
「俺は組織の末端だけど、こいつだけは嫌いだった。アジア、特に日本人差別が酷いの」
比良の背後で、ケンが戸惑ったような顔をして立っていた。
「さて。俺は反逆罪でミンチにされちまうかな? ここで死んでいった子供たちのように」
アレスタの死体を眺めて、その血を忌々しそうに指ですくった。
「こいつを始め、ここで養成という名の児童虐待、血液搾取してた連中は、本当の支配者じゃないんだよな」
急に後ろを振り向き、四駆車に乗ろうとしていたケンの頭も銃で撃ち抜いた。




