悪と悪 17
一本目。
的に中らなかった。矢は、舘さんの頭上を掠めて落ちていった。あっぶねぇ!
「く、そぉ!」
「橋本先輩! トラック止めて!」
そうしたいのは山々だけど、後ろから車来てるんだって。
なるべく徐行しながら、もう一度寄せてみる。
「堀!これが最後だ!」
部の試合なら四射できるが、もう時間がない。
堀は声も出さずに狙いを定めた。
敵は何やってんだと言わんばかりに、突っ立て鼻をほじりながらこちらを見ていた。
――矢が放たれた。
まっすぐに正確に、それは男の胸部分に的中した。
敵が倒れた。
「やったぁ!!」
山城と原田の声が聞こえる。喜んでばかりもいられない。四駆がすぐそばに迫っていた。
「原田! 男が持ってた剣で舘さんの縄を切ってくれ!」
「よっしゃ!」
と原田が立ち上がり、荷台から降りる。
落ちていた剣を拾い、もう一度荷台に乗って木の枝に結ばれた縄を切り刻む。
「なんだよ、き、切れねぇ!」
ぶら下がった舘さんは顔面蒼白でピクリとも動かない。
「原田さん! 早く!」
バン!!と、後方につけていた四駆車が停まり、助手席から銃を持った男が降りてきた。
――アレスタだ。
「原田!」
「よし!! 切れた!」
原田の声と、荷台に大きな体が落ちたのを察知し俺は再びアクセルを強く踏んだ。
アレスタが乱発した銃の弾が、車体のあちこちに当たっている。
金属同士がぶつかり合う音と悲鳴。
ミラーから見れば、皆、ちゃんと荷台にうずくまっている。
前方に船が見えてきた。
――【らせんまる】だ!
その横にまだ中国船も停まっている。
らせんまるの船員は無事なのか。
俺達はあの船で東京に戻れるのか?
それとも、やっぱり奴らにとっ捕まって、皆、殺されてしまうのか?
――嫌だ。皆で帰るんだ!
下り坂。
強い思いが更にアクセルを踏み込ませたその時、銃声と共にガクン!と車体が傾くのを感じた。
弾が当たり、タイヤがパンクしたようだ。
バランスを失ったトラックは、思うように走らず、しまいにはブレーキが利かなくなって、そばの大きな木に衝突してしまった。




