悪と悪 15
それから少しの間あって、原田が滋岡道中の新チャンネルの動画を見ようとしたけれど、「……なんだよ、さっきまで繋がってたのに」電波がまた途切れてしまった。
「……あれ、エンジンの音が聞こえないか?」
堀が車の音を聞きつけて、走って入口に寄ってきた。
「うまくトラックに乗れたのか?」
皆の期待が高まる。
「おい、子供達を順に乗せろ」
舘さんの声だ。
「弱ってる子から乗せてあげてください」
山城が、ぐったりした子供を抱えて俺に訴えた。
「うん」
もちろんそうするつもりだけど、何故だか胸がざわざわした。
「よし、とりあえず俺のシャツでこの子の顔を覆って荷台に乗せよう」
原田が扉を開ける。
「あ、ま――……」
“待て”
止める隙もなく扉の隙間から眩い光が差してきた。
すぐそばにトラックのテールランプが見える。しかし、外に一歩踏み出し、入口付近を見回してもあるのは木々のみ。舘さんの姿はなくて、運転席を見れば彼の後頭部が見え、降りてこないことに何となく違和感を感じた。
扉越しに声をかけて、直ぐに運転席に戻ったってか?
「……――」
「おい。千尋! お前も手伝えよ!」
皆が子供達を次々に乗せていく中、俺はトラックの運転席窓に近寄った。
「あ……!」
見て愕然とする。
運転席に座っていたのは……舘さんだと思っていたのは、セルロイドの人形だった。
じゃあ、舘さんはどこにいるんだ?
さっきの声は?
「その顔!」
トラックの正面側から、ククク……と馬鹿にしたような笑い声が聞こえてきた。人の神経を逆なでするような声が。
「比良……」
隠れるように俺達を見ていたのは比良と、堀が白魔術師と呼んでいたケンという男だった。
ハーフみたいな顔立ち。
いかにも温厚そうな垂れた目。
悪魔と契約して術を行う黒魔術とは違い、神や精霊の力を借りて術を行なう白魔術師は、それだけで善人に見えた。
「舘さんはどこだ?」
しかし、こんな奴らに騙された。おそらく舘さんの声は術師が霊にでも出させたのだろう。
「舘って、もしかしたあいつのこと?」
比良が、ここより数百メートル離れた雑木林を指して笑った。
「!」
そこには、男達に縄で吊るしあげられている舘さんの姿があった。
「バカな奴。トラック奪いに来たのもケンにはバレバレだっての。あの人、本当に最強の陰陽師?」
比良が目を細めて、木にぶら下がる舘さんを見ていた。舘さんを縛り上げたのは後から来た船の男達のようだ。
中国語でなにやらワァワァと話している。
「橋本先輩、どうしたんですか?」
トラックの荷台の方からひょっこり顔を出した山城が、ケンと比良を見て、ギクリと身体を固まらせた。
「おーい。子供達全員乗せてシート被せたぞー」
堀もこっちを見て同じような反応をする。
「げ、白魔術師」
それにはケンがおかしそうに笑った。
「ここの魔術師に白も黒もないけどね。なぜなら神を崇めて悪魔を呼び出し、どちらの力も借りて雇い主のために他人を呪うことをするからね」
悪魔だけに心酔してても呪術は上手くいかないんだよ、と白い歯を見せる。
「このままトラックの子供達は内臓処理の方にまわされる。お前たちが余計なことをしなきゃもう少し生きながらえたのに」
比良が離れたところにいる中国人の男を手で招いていた。
「……あいつらが内臓を取り出すのか」
どう見たって医師には見えない輩。
「俺も手伝うけどね、しかし、今日は大忙しだな。荷台に何人乗ってるんだ?」
比良がシートを掴み捲り上げて中を覗こうとする。
中国人が一人走り寄ってくる。
――いったい、どうすれば――




