悪と悪 14
「そんなロゴあった? 俺は見てなかったけど。秘密組織ならあからさまだよな」
原田が言うには、八咫烏は日本神話では何かの目的に向かっていく際の道案内役――これは山城の話と同じ――日本では聖武天皇の時代から八咫烏という秘密結社が存在していたと。
それは神道や陰陽道を裏から仕切り、宮中における祭祀を支配し、迦波羅と呼ばれる神技の使い手であり、陰陽道自体においても陰と陽が存在し、その陰の陰陽道を扱う者たちが八咫烏。
中でも、特に安倍晴明が有名だと。
「迦波羅ってユダヤ教のカバラが起源で、イスラエルの祭祀を司るレビ族の末裔と言われてるんだ」
原田がまるで何か書物をみているかのように饒舌に話す。
その声は閉ざされた通路にやけに響いた。
話を聞き、アレスタを霊視した時に見た、六芒星を思い出す。
遠いイスラムの国――六芒星――。
あれはイスラエルの国旗だったかもしれない。
『日本古来から伝わる神道というのは、もとはユダヤ教だといわれてる』
舘さんが言っていたこととも共通する、これはきっと事実に違いない。
「で、その結社と竹森隆の関係は?」
「ちょっと難しい話だから端折るけど……」
原田の話は興味深かった。
子守をしている山城も、何気に耳をこちらに傾けている
竹森隆は、現在は政界の表舞台から消えているが、今もなお内閣に大きな影響を及ぼしているその理由は、神道政治連盟という団体の組織委員で、さらに副会長をしているからだと。
神道政治連盟とは天皇が政治における決定権を握る絶対君主制を復活し、軍の「統帥権」を天皇に帰属させ、天皇を中心とする祭政一致をなす「国家神道」復活を目的に作られた団体なのだという。
「彼は汚名着せられる前は、次の総理大臣候補だと言われていて、裏天皇のための政府を作ろうとしていたらしい」
裏天皇。
もし。
本当に存在するのなら、竹森はそれを守るための表の存在ということか。
「そもそも裏天皇を守護していた八咫烏とは一体何者なんだ」
「某教を中心とする宗教団体の霊媒達の集団だよ」
「霊媒……」
やや離れたところから聞いていた堀が声を震わせた。
「で、その人たちの目的ってなんなんです? 戦前みたいな天皇を中心とした国にしてどうしたいの?」
山城が真剣な目で知りたがった。
「……おそらく、だけどね」
原田が汗でずりおちたメガネを指であげながら続ける。
「日本を中心とする新世界じゃないかな、と」
新世界……。
なんだか、どっかで聞いた事ある話だ。
「その目標は、我らが敵、奴らの目標とする国境や性別、宗教、信仰を排除し全世界を統一支配する”新世界” と対立してしまうのさ」
あ!
と思った。
だから、竹森は大国の支配者たちの標的になってしまってるのかと。
「……でも、変だよな。対立してるのに、いくら息子を人質みたいに取られていたとはいえ、敵を自分の建てた施設に出入りさえ、船で連中の分の食材なんかも一緒に運び込むなんて」
その矛盾さも引っかかって呟いた。
「思うにさ、」
原田は額に滲む汗を着ている服で拭いながら続ける。
「日本の支配層も世界の支配層も、時には衝突して戦争なんかを起こしちゃうけど、結局、目的は同じなんだよ。争いながら、どうかすると手を結んで悪事を起こす。それに巻き込まれるのは奴らが言う“羊”であり一般庶民なんだよな」
黒髪ロン毛の魔術師が舘さんに言ってた、竹森隆=偽善者って、このことだったのかもしれない。




