悪と悪 12
下から子供たちを支え補助した舘さんは、最後によじ登って蓋を閉めた。
中は真っ暗でスマホやペンライトの灯りでは良く見えないが、埃や砂で白っぽい床に、まだ新しい靴跡が付いているのがわかる。
――比良、だろうか?
「結構、距離ありますね。あの式は物凄く早く戻ってきたけど」
腰をかがめて歩くものだから、これが長時間となるとしんどい。
「あれは、眷属だからな。お前は式は使わないのか?」
俺より背が高い舘さんは更に腰に負担がかかっているだろう。
「はい。眷属を養ったりはできないので」
占術もできない中途半端な陰陽師だ。
「そうか」
舘さんはそれ以上何も言わず、バテて動けない子供を背中におぶっていた。
しかし。暑い。
汗で目が染みて、瞬きしながら歩いていく。
「あ、もしかして、あれ、扉じゃないですか?」
ずっと無口だった山城が明るい声で前方を指した。
本当だ。
僅かに凹んだ壁に、小さな扉があった。
微かに光が漏れている。
問題は、紫外線にあてられない子供たちをどうやって運び出すかだ。
取りあえず、扉が開くか確かめる。
「開いた……」
先頭を歩いていた原田と堀が取っ手を回して喜んでいた。
「待て。外で誰か待ち構えてるかもしれない」
直ぐに扉を押し開けようとした原田の手を舘さんが止める。俺も、これは比良の罠かもしれないと思った。
「ここから船までどのくらいあるのか、俺が見る。お前たちは目を瞑ってろ」
子供達に指示をした舘さんが原田を後ろに退かし、扉を開けようとしたら、また紫音さんからの通信が復活した。
「“あなたたちがいるその場所は船とは真逆の所にあるわ。距離にしておよそ800m”」
800m……。けっこうあるな。
暑さでぐったりした子供達を見る。
ずっと監禁されていたなら筋力も衰えているだろうし、船まで走れないかもしれない。
「ね、このおばさん、だれ? なんでそんなことわかんの?」
堀が俺のスマホに映る紫音さんを見て失礼なことを言っていた。
「紫音は神の声が聞こえる霊能者だ。透視もできるから未解決事件の捜査にも協力を要請されることもある」
舘さんの説明に、すげー、俺も透視能力欲しいーと堀が心底羨ましそうな声を出す。
「“らせんまるの近くに船が止まってるわね、そう大きくはない船、外国人が乗ってる……”」
紫音さんが視る船は、けして味方にはなってくれないだろう。
「“そして船の近くにトラックが止まってる。らせんまるからの搬入のあとは、その船から人間を運び入れるために使ってるわ。また、子供たちがたくさん……”」




