悪と悪 5
堀は話さなくとも毎日、顔をつき合わせていたからわかるんだろう。
「トイレじゃないのか」
原田がトイレらしきドアを開けるも、悪臭が放たれただけで中は誰もいない。
「……アレスタに連れていかれた」
床に寝そべったまま飴をしゃぶる男の子がボソッと言った。
「アレスタ?」
【エデンの勇者】の?
「あいつ、地下に降りてきたの?」
「うん、コスギもいた」
「わかったぞ! 撮影だ!」
堀が大きな声を出し、鼻息荒く言った。
「そうか、ここ、プロモ撮影用の部屋あったよな」
――すなわち、拷問部屋。
「また、拷問シーンを使ったプロモ作るのかな」
思い出したのか、山城が吐きそうな顔をしている。
《そこ、一人魔術師がいるわよ》
紫音さんの知らせに、舘さんが反応した。
「魔術師? 撮影に必要か?」
《彼らにとっては撮影も儀式の口実なのよ。ま、それぞれ目的が違う人間がいるわね。一人、英国人がいるでしょ? 彼は単に日本人をいたぶるのが好きみたいね》
癖のある者ばかりの集いだから、気を付けて、特に前世巫女のお嬢さん、との忠告を最後に通信が途切れた。
「ここ、電波悪いみたいだな」
スマホも通じない、閉ざされた地下通路を少し歩くと、灯りが漏れた部屋を見つけた。
ドアの鍵はかかってない。
舘さんがそっとノブを回すと、多数の照明器具のせいで、一瞬、視界がくらんだ。
数台のカメラが回され、ちゃんとカメラマンもいる。
ピンクのポロシャツのコスギが、こちらに背を向けてパイプ椅子に座っていた。
ちょうど、アレスタとメンバーが血糊をつけて音楽に合わせて踊っているところだった。
「消えた子どもはいるか?」
舘さんが堀にポツリと尋ねると、「はい」と、頷いていた。
俺も隙間から覗き見る。
――あれか。
スタジオの奥に、病院にあるようなベッドに寝かされている男の子を見つけた。
「どうしますか?」
俺は、険しい顔をした舘さんを見た。
「……あの男の子は手錠がかけられてるな」
「あぁ、そうですね」
俺や山城、堀の拘束はロープだったが、PVとなると、よりらしさを出す為なんだろう。
「鍵付きの本格的な奴だろうか?」「どうでしょう。ただの撮影用なら必要ないのかもしれないけど」
――撮影は口実だから。
「紫音に誰が鍵を持ってるか訊いておけばよかったな」
「あ、……アレスタが、包丁を持ち出しました」
山城の震えた声が、俺達の間に緊張を走らせる。
「なんか、男の子の足を切ろうとしてないか!?」
原田がやや大きな声を出してしまう。
「お嬢ちゃん、ここで弓矢の出番だ」
舘さんに促され、山城が仕舞っていた弓と矢を取り出した。




