悪と悪 2
「そろそろ荷物運び終わるな」
堀が外を見てから、俺を見た。
「来ると思うか?」
ついで不安になる事を言い始めた。
「来る……だろ」
答えながらも、俺も急に自信がなくなった。
丸一日、連絡を取り合わないと、舘さんや紫音さん、滋岡と出会っていたことも、彼らが俺らを助けるために動いてくれる事も現実とは思えなくなってきた。
そう言うと、
「それ、付き合い始めの男女みたいですね」
と山城が笑う。
「お前、そんなこと言って男女交際の経験あるのかよ?」
「ありませんけど、なにか? 堀先輩こそあるんですか?」
「ね、ねぇよ! でも好きな子と手を繋いだことはあるぞ! どうだ、羨ましいだろ」
低レベルなことでムキになる二人をやや冷めた目で見ていたら、
「私は、好きな人とキス以上のこともしましたもん」
山城が俺の方を見て言った。
「え、なに、どゆこと!?」
堀が、山城と耳から熱くなっていく俺の顔を交互に見る。
「二人ってそういう関係?!」「違うわ!」
今度は俺がムキになり、そんな俺を山城がちょっと切ない目で見るので、軽く咳ばらいをして話を戻した。
「もし、舘さんたちの救いの手がなくても、なるべく一人でも多く、あの船に乗ろうな」
そうして、この島の実態を何とか世間に知らしめて、地下の子供たちを救いたい。
「なるべく、って……」
堀の顔が翳るも、それが現実だと思った。
今のところ、二人に死相は視えないが、疲れからか、ここにきて俺の第六感が少し鈍ってきた気がするし、何が起こるかわからない。
やや少しの間あって、沈黙を破ったのは、窓からの大きな人影だった。
――舘さんだ!
そして原田もいる!
ガラス越し、ターミネーターみたいな大男が中を覗くものだから、堀がひゃっと悲鳴をあげた。
「なんか、窓から離れろって言ってるみたい」
山城が舘さんの口の動きを見て、後ずさる。
ドアに鍵がかかってるからだろう、窓ガラスを割ろうとしていた。
「最近のガラスってそんなに割れないんじゃないの?」
「でも、これは二重ガラスじゃないよ」
離れながら、舘さんを見守る。
彼の手には、エレベーター付近に置いてあったシートがビロードの猫足の椅子が握られていた。
「まさか、あれを投げる気じゃ……」
なんて手荒な……、と思ったら、やっぱりそうだった。
大きな音と飛び散るガラスの破片、襲ってくる椅子から走って逃げると、次には舘さんが軍手を
はめた手で枠に残ったガラスを取り除いていた。
「舘さん!」
嬉しさのあまり俺が呼ぶと、舘さんが「舘さんて誰だ」とサングラス越し不可解そうな視線をよこした。
あ。
そうだった。
名前教えてくれないから、仮称を付けたのだった。
「橋本くん! 山城さん! 良かった無事で!」
泣きそうな顔で原田くんが入って来て、堀が、“誰だこいつ”って目をしていた。
「鳩、届けてくれたんですね」
笑って言うと、舘さんは何故か不機嫌な顔をして俺を睨んだ。
「デッキで海見てたら、カモメに混じって鳩が飛んでて、船員も客も珍しがってたんだ。ちくわを持ってもカモメは逃げてくのに、鳩が俺の頭に止まったものだから、皆の注目を浴びた」
「頭にとまったんですか」
想像したら可笑しくて、俺以外の皆も肩を震わせて笑っていた。
「肩、怪我してるのか」
ポケットから出した包帯に描いた間取り図と、俺の肩を交互に見た舘さんが眉をひそめた。




