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転生陰陽師は呪詛をしたくない【仮】  作者: こうつきみあ(光月 海愛)
七 サヨナラ third
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救いと導き 37

 鍵までかけられ、レッスン室に閉じ込められた俺達は、再び迫る恐怖に息を呑む。

 扉の向こうには、竹森と少女の遺体。

 もしかしたらまだいるかもしれない怨霊。

 霊は怖くないとはいえ、あんな化け物は俺も見たことがない。

 A子はもとは浮遊霊に近かったけれど、ここにいた地縛霊や強い波動におびき寄せられた霊と融合して怨霊になった。

 俺が知っている霊の融合体は、ほとんどが狐や狸、蛇、まれに龍といった動物霊になっていたのだが、今回のような人間の姿をしたままなのは初めてだ。


「先輩……私、寒いです」「俺も……」


 山城や堀が急激に顔色を悪くしていく。

 子供達は空腹もあって力なくだらりと座り込んでいる。

 俺は、近寄る気配に集中する。

 更衣室からぼんやりと見える黒い霧。

 こっちに向かってくる邪悪な気配。

 本来、あそこまで邪悪化した怨霊から身を守る呪文なんて陰陽道にはないに等しい。あれはもう神仏の力を借りないとダメだ。

 それでも、


「青龍・白虎・朱雀・玄武・勾陳・帝台・文王(南斗)・三台(北斗)・玉女」


 と唱え、印を結んだのは、山城にすり寄ってきた霊が竹森浩介だったからだ。


 ――さっそく化けて出てきやがった。


 額の傷。

 A子に折られ、おかしな向きになったままの首。

 つり上がった眼は死んだ時と同じで白目だけしか見えない。

 霊となった竹森浩介の姿は俺だけにしか視えておらず、山城も堀も寒さに震えるばかり。

 俺が繰り返す呪文が効いたのか、少しずつ離れ、次第に視えなくなった。


「……ここは霊だらけだ」


 地下はおろか、外もフロアも。エレベーターも。

 俺は息をついた。

 ここで殺されたあの女の子も、地縛霊や浮遊霊になるかもしれない。そうして、あの怨霊に飲みまこまれ、また巨大化するんだ。

 悪のループにゾッとした。

 殺した人間どもを祟ればいいものを――。


「先輩、聞いてもいいですか?」「……なに」


 頬に血の気を戻した山城が、床に寝転がる子供の頭を撫でながら訊いた。


「私が打ってしまった、遺伝子を書き換える受動体って、何に反応してたんでしょうか? そして取り除くことってできるんですか?」


 難しい質問だった。

 俺が比良に聞いた話も、おそらくまだ治験中でデータが出揃ってないだろう。


「新しく買ってもらったスマホに、なんか健康アプリみたいなの入ってなかったか?」


 もしかしたら俺の新しいスマホにも既にインストールされているかもしれないけれど、使わないものは見てもいない。


「なんか、あったような気がします。あ、それをアンインストールすればいいんですか?」


「……いや」


 うろ覚えだが、そのアプリは絶対にアンインストールできないようになってると言っていたような気がする。


「その薬の解毒法はきっとあるはずだから、とりあえず、ここの脱出を待とう。もう少しの辛抱だ」


 心とは裏腹に力強く言ってみた。

 きっと。

 二階にはまだ姿を現してない組織の人間もいるだろうし、その護衛もいるはずだ。

 脱出は容易じゃない。

 それでも、俺はここに来て良かったと思ってる。


「堀先輩ってば、こんな時なのに寝ちゃいましたね」


 子供の一人を抱いて床でいびきをかく堀の顔を見たら、それだけで救われた気がした。

 俺には守りたい人がいる。

 それを自覚できただけ、来世への手土産ができたと思うようにしよう。



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