救いと導き 34
竹森浩介の仲間達は、一目散に更衣室から出ていった。
俺は、山城と子供達を抱えて、まだ恐怖に固まっている堀に声をかけた。
「俺達もここを出るぞ。この怨霊と目を合わせたら最後だ。それこそ末代先まで祟られる」
「……え」
堀がブルッと身震いして、俺の背後にくっついた。
「お、怨霊なら千尋が祓えんだろ?」
「俺には出来ないし、怨霊なんて優秀な霊能力者だって簡単には祓えない。逆に呪い殺される可能性もあるから嫌がるんだよ」
とりあえず更衣室を出て、念のため結界を張る。
ああいう怨霊が、この島のあちこちにいるのかもしれない。
だから専属の呪術師を雇ってそばに置いてるんじゃなかろうか。
「しまった」
更衣室を出て、直ぐに後悔した。
「なに、どうしたんだよ?」
「竹森浩介のスマホ、奪っておけば良かった」
そしたら、外と連絡取れたのに。
「なら、戻るか?」
言葉とは裏腹に堀の体は別の部屋に向いている。
「いや。せっかく、結界を張ったしな……もうしばらくここで船を待ってよう」
「……でも、船来るまでの間にルーメンのメンバーに見つかりませんかね?」
山城が俺の腕の中で呟いた。
この時、まだ彼女を抱き締めたことに気が付き、慌てて離れる。
「確かに銃声、響いただろうからな」
「お腹すいた……」
急に連れてきた子供達が、声を出した。
「そうだよな、腹減ったよな。ここは食堂みたいなのないのか? 厨房になら何かあるだろう」
竹森浩介たちだけなら、父親から送られてくる保存食でも間に合うだろうが、海外の上級メンバーが泊まるのなら、そういうわけにもいかないだろうし。
間取り図を描いた子供が、「あるよ」と、二階を指差した。行ったことはないが、大人達が二階のレストランで有名な誰々と飯食っただとか、話していたのを聞いたのだと。
「二階かぁ……ハードルたけーな」
堀が腕組をして、フロアーの天井を睨む。
「でも、橋本先輩の手当てもしないと、まずいでしょ」
山城が俺の肩の傷を心配そうに見た。
「俺なら大丈夫」
出血多量で死ぬのなら、まだ覚悟ができる。
「早く【らせんまる】こないかな」
空腹の子供達を囲ったままフロアの窓から外を見ていると、エレベーターが下りてくる音が聞こえた。
二階から誰か降りてきた!
このフロアで入れるところはレッスン室と更衣室しかない。俺達は結界から出て、レッスン室に戻る。隣に女の子と竹森の遺体があると思うと落ち着かなかったが、やむを得ない。
レッスン室の窓から、そっとエレベーターから降りてきた人物を確認すると、見たことある男だった。
「あ、あれ、【エデンの勇者】のアレスタじゃん」
堀が小声ながら興奮気味に言った。
「やっぱりそうですよね、ボーカルの」
「……」
竹森浩介の画像で霊視した際に視えたファン殺害の共謀者。
イギリス人で品のある端正な顔立ちが人気のアーティストだ。
生で見ると、ただならないオーラを感じた。
「アレスタって、噂じゃ王族の遠い親戚らしいよ、あくまで見た目貴公子からきた噂だけどな」
堀の言ったことは、まんざら嘘でもないだろうと思った。
大昔から、西洋の貴族や王室の一部は(もしかしたらアジア圏内も)隠れサタニストであることが多いとされている。




