救いと導き 33
「……お、」
「動くなよっ!」
竹森浩介も、その仲間の男達も、ニヤニヤして俺の顔色を伺っている。
これは、脅しじゃない。
間違いなく山城を殺す。
あんな小さな女の子でも何の迷いもなく殺したんだ。
持っている杖をぐっと握りしめる。
これを奴の目や心臓目掛けて打つにも、遠すぎるし間に合わない。
――一体、どうしたら……。
その時、室内の空気が湿っぽく冷ややかになるのを感じた。
「俺は、お前に罪を償わせたい」
「は? 急に何言ってやがんだ? 時間稼ぎか?」
俺は、静かに首を横に振った。
「お前に殺されたデリヘル嬢の彼女も、その子供も、ここで殺された女性や子供達全員がそう願っている、今もそう言っている」
「……なに、寝言を言っ……」
嘲笑おうと大口を開けた竹森浩介の顔に、ピッタリと青白い手が這っていく。
側にいる山城が恐怖で顔を強ばらせる。
「……お前に殺された彼女は、ここで娘が殺された事を知って怨霊に変わった」
ようやく、ここに辿り着いたA子が、鬼のような姿に変貌して現れたのだった。
「ひぃぃぃっーー!」
と悲鳴を上げたのは竹森浩介だけじゃなかった。
仲間の男達も、霊感のない堀も視えているらしく、巨大な怨霊と化したA子の姿に心底震え上がっている。
「な、な、な、……なんだ、こ、これ」
俺が何度か視たA子は、茶髪で薄着の服を纏い、悲壮感漂う悲しい霊体であったものの、こんなに恐ろしくはなかった。
しかし、今の彼女は、髪は黒々しく変化し、顔形まで変わってしまっている。
目がとても大きくなり、白眼はなく全て真っ黒でどこを見てるかわからない。
口は元の何倍も広がり、今にも竹森浩介の頭をすっぽりと飲み込んでしまいそうだ。
それに、何故か怨霊に変わったA子は白い着物を着ている。
普通、霊というのは死んだとき格好で現れる場合が多い。
日本の霊で白い着物を着てるのは、ちゃんと葬儀を行ってるからだ。
俺が感じる限り、ここの島に、それこそ千年近くいる悪霊や怨霊と合わさってしまったのではないかと思われた。
この島は、きっと、噴火やらで最近出来た島ではないのだろう。
平安時代前後から、鬼に人さらいにあった被害者が殺されていた秘島なのかもしれない。
平安から鬼が女子供をさらっていく話が日本人各地に言い伝えられているけれど、あれは実は渡来してきた外国人だったという説もある。
大きな図体。
赤銅色の体。
金髪の髪。
尖った鼻や凹凸だらけの顔。
古来の日本人から見たらさぞ恐ろしかったことだろう。
「い、、い、いやだ! お、俺から離れろっ!!」
巨大なA子に包まれた竹森浩介のズボンの股関部分はぐっしょり濡れている。
「山城、こっちに」
奴の腕から解放された山城に声をかけ、フラフラと俺のもとへやって来た彼女を思わず抱き締めた。
「見るな」
震える山城の後頭部を胸に抱き込み、ぐっと力を込める。
俺も、竹森浩介の最期の瞬間から目をそらした。
A子に首を折られた竹森浩介は、頭はおかしな角度のまま白目を剥いて床に倒れていた。




