救いと導き 22
真夜中。
再び、喉の渇きを覚えて目を覚ました。
銀のトレーに置かれたコップの水は、手を使わなくても何とか飲もうと思えば飲めたけど、トイレ替わりにしろと言われた部屋の溝を見れば、どうにも飲む気持ちにはなれない。
部屋の悪臭にも鼻が慣れて、マットに横たわったまま寝る事だけを考えようとしても、儀式という名の殺人現場を思い出して身を震わせた。
一か月後……。
あんな殺され方するくらいなら、餓死したほうがマシだ。
その間に、誰か助けに来ないかな。
滋岡さんが動画でこの殺人島を暴露して誰か動いてくれないだろうか?
もしくは、あの厳つい陰陽師さんが、紫音さんと一緒に悪者をやっつけてくれないかな……。
でも、相手が悪すぎる。
悪魔崇拝のエリート達だ。
きっと、難しいに違いない。
絶望と希望の間でマットを涙で濡らしていたら、ガシャンと、鍵が回る音が聞こえてきた。
誰――?
息を殺して身構える。
扉の隙間から漏れた光が、入ってきた男達の姿を炙り出した。
目を細めて確かめると、竹森浩介、先ほどの監視していた男達、そしてフード付きマントを纏った背の高い男。
何?
まさか、あれが高僧――?
準備が出来たってこと?
今から、花嫁の儀式が始まるの?
「おい、生け贄、起きろ」
必死に寝たフリをしている私の肩を、竹森が揺さぶった。
「準備が出来たぞ。今から花嫁の儀式の始まりだ」
――やっぱり!
ぐっと力を入れて竹森の手に反動するようマットへ身体を押し付けるも、竹森は、「めんどくせぇ、運べ」と、男達に指示をしてマットごと私を隣の部屋へ運んでいく。
高僧は、死神っぽく大きな鎌と、はりつけされたイエス・キリストが付いた神への侮辱を表す杖を持ってゆっくりとついてきていた。
マントの床を擦る音がとても不気味だった。
「いや、!やだ! はなしてっ!」
女の子が殺害された祭壇へと運ばれ、まだ鮮明に残る血生臭に発狂しそうになった。
男達に抑えられ、祭壇の上で手を結び直された。
力ある限り足をばたつかせるも、それも複数の手に容易く抑えられた。
「足は、どうする?!」
太った男が私の足首を固定するかどうか竹森に確認。
竹森は、少し間を置いて、マント姿の高僧役の男の方を見た。
フードを深く被ってるため、顔は全く見えない。
「やる本人に訊こうか。足持ってヤりたいか、それとも完全固定がいいか?」
想像してるのか、男達が興奮している。
一人の男が、どこからか檻に入った猫や鳥を運んできた。
あれも儀式に使うのかもしれない。
鳥もけたたましい鳴き声を上げている。
マントの男が、スッと近寄り、私の足に触れてきた。
とても冷たい手だ。
「このままでいい……」
マントの男がポツリと言った。
……え?
今の声……。
聞き覚えのある声で何かの間違いかと思った。
「だよなぁ、できるだけ体位試したいもんな」
下品な竹森の笑いに、マントの男が頷く。
「儀式は乱交が基本だ。生け贄も高僧も、お前らも全員脱げ」
檻を運んできた男がいち早く服を脱ぎ出す。
動物を虐待する役らしく持っていた包丁も床に置いている。
乱交……。
いやだ。
この高僧とだけするんじゃなかったの?
次々に服を脱ぎ出す男達を見て、嫌悪感から死にたくなった。
「お前も脱いで、生け贄ひんむけ」
竹森も素早く全裸になって、マントの高僧役の男に指示をする。
「……あぁ」
低いけれど、まだ若い男の声。
フードをゆっくりと脱いで、露になった男の顔は、やっぱり橋本先輩だった。
「お嬢ちゃん、良かったなぁ。こいつ、実験台になって薬打ったら、すっかりロボット化しちまったよ。抵抗なくお前をヤルってよ」
竹森は、これから起こる悲劇をさも待ちわびてるかのように、腕組をして祭壇を見ていた。




