救いと導き 21
「せ」
性奴隷?!
花嫁なのに、奴隷?!
ルシファーって、悪魔のことよね。
それへの生け贄にされるの、わかる。でも。
「高僧って、なんなんですか?」
お坊さん?
……と、え、エッチしなきゃいけないの?
動揺する私を愉快そうに見て、その男は答えた。
「通常、ルシファーが乗り移る高僧役ってのは【ゴールド・スター】や【ルーメン】のメンバーか、その家族がやるんだ。生け贄よりずっと美味しい役だからな、くじ引きなんかしなくったって候補者はいる。でも、」
「でも?」
「今回は特例だ」
「……特例って」
「俺もまだ詳しく聞かされてないけど、実験台になった男を使うってよ」
「実験台?」
なに。
ここって、人体実験とかもやってるの?
でも、それくらいやりそう。
「……私、そんな人に……」
初めてを捧げちゃうの?
涙ぐみながら、橋本先輩を思い出した。
せめて、先輩とファーストキスだけでもしたかったよ。
すごい高望みだけど。
せめて、″好き″ だって告白くらいしてみたかった。
撃沈恐れて、嫌われるのが怖くて、できなかった。
「おねがいです。その前に、私を先輩に会わせてください……」
怪我をして寝かされていると聞いた。
もしかしたら、重傷で命も危ないかもしれない。
このまま会えなくなるなんて嫌だ。
「なに、あの男、お嬢ちゃんの彼氏だったの?」
「子供だと思ってたのに、やるねぇ」
ポロポロと涙を溢れさす私を見ても、男達は嘲笑うだけ。
「そんなんじゃありません……」
「上玉だってコスギ喜んでたからなぁ、今頃もう一人のあんたの先輩と一緒に遊んで貰ってるかもしれないぜ? 」
今度は可笑しそうに何やら小声で話し、どっと笑って私の圏外で雑談を始めた。
この人たち。
竹森とかより、ずっと、普通の人なのかもしれない。
もしかしたら、色々聞き出せる?
「あの。さっき……殺された女の子はあの後どうなったんですか?」
おずおずと訊くと、
「あいつらが切り刻んで食ったんじゃねぇ?」
「え、い、い遺体を?」
まるで、以前聞いた人魚の伝説のよう。
「そこまでが永遠の命を貰う儀式なんだよ! ま、貰えねーけどな!」
さも当たり前の事のように、さらりと言ってまた笑い合っていた。
――やっぱり、普通の人たちじゃなかった。
男達が話や監視に飽きて、「鍵締めて、俺らも飯食うか」と言い出したので、きっと、もう夜なんだと思った。
やっと、一人きりになれる。
ほっとするけど。
……ちょっと待って。
出て行こうとする男達に、恥をしのんで訊いてみる。
「あ、あの、もし、トイレに行きたくなったら……」
若い男がアクビをしながら、部屋の隅を指差した。
「その辺でやっとけ。溝があるだろ、壁んとこ」
「え」
「だいたい、ここ、一時的な監禁部屋でガキどもの集合室は他にあんだよ。そこならトイレも風呂も付いてんだけどな。刑務所と思って諦めろ」
刑務所だってトイレくらいあるでしょ?!
「……わ、私も他の人達のところに」
連れて行って、と言う前に扉を閉められ鍵がかけられた。
そもそも、こんな手首拘束されたまま、どうやって用を足せと……。
屈辱的。
人権侵害。
そもそも人間扱いされてない。
――何もかも、絶望的だ。




