救いと導き 20
「……あ、あの人たちは血なんか飲んで平気なんですか、一体、何者なんですか?……」
普通の精神の持ち主じゃない。
気持ち悪い。
あのマントを纏った人間も、それを眺めている竹森も、周囲の男達も。
「見たいか? あいつらの顔を。見たらガッカリするかもしれないぜ? 」
「……どうして?」
「有名人も混じってるからだよ。それに男ばっかとは限らない。若返りたい欲は女の方がつえーだろ?」
言われてみたら、マントを纏った人でやけに華奢な人もいる。
「さて、儀式の総仕上げだ」
竹森がスマホで写真を撮り始めた。
私は、「きゃっ……」と、自分で驚くほどか弱い悲鳴を上げた。
なぜなら、大きな杭を手にしたマントの男がそれを生け贄の女の子の胸に振り下ろしたからだ。
「ぐ……ぅっ!」
と、絞り出すような少女とは思えない短い悲鳴が聞こえた。
血飛沫が飛び、痙攣を起こしたあと、やがて女の子は動かなくなった。
今度こそ、命を落としたのだ。
見ていた私は、恐怖のあまり力が抜けて立てなくなった。
「次は、お前だからな。漏らすなよ」
″ツギハオマエ″
″水、火、災難――″
どうしたって避けられない。
もう、絶望しか感じない。
クックックッ……とバカにしたような、冷めきった竹森の笑い声がずっと地下に響き渡っていた。
「ほら、戻るぞ」
震えて力が入らないのに、無理やり立たされ、元の部屋に押し込まれる。
「もう少し待ってな。高僧の準備が出来たら、お前の儀式もおっぱじめるからな」
マットに私を座らせると、竹森は他の男達に目配せして、私の両手首を紐で縛らせた。
「……こ、高僧って、……なんですか? 」
喉の皮膚がくっついて、声も上手く出ない。
「死にそうな声出しやがって」
竹森が鼻で笑った。
「生け贄に飢え死にされちゃ困るから、こいつになんか食わしとけ。あ、と儀式の説明もしといてやれ。俺は、早速さっきのをアート化したいから暫く部屋に籠るわ」
竹森がスマホを持ってニヤニヤしながら出ていくと、太った男が待ってました!と言わんばかりに、いきなり私のスカートの裾を捲った。
「ひ……!」
太ももを露にされ声にならない声を上げる。
「やめとけって。そいつはルシファーの生け贄って決まったんだから、処女じゃないとダメだろー」
他の男が止めると、「ち」と小さく舌打ちし、太った男は私から離れたが、いつまでも上から惜しそうな目を向けるので鳥肌が立った。
……こんな男達に囲まれて1ヶ月もここで過ごすの?
「お嬢ちゃん、食わしてやろうか?」
どこからか運び込まれた食事――と呼べるのか微妙なほど粗末なもの、缶詰め、くしゃくしゃの袋に入ったパン、水――を目の前にしても、両手の自由がないので食べられない。
それに、食べたら、出るものは出る。
トイレもない監禁部屋で、もよおしたらそれこそ地獄だ。
首を横に振ると、
「いいから食えって、こっちが叱られんだろ? 竹森のボンボンに」
若い男に無理にパンを口に押し込まれた。
仕方ないので咀嚼し、水を飲ませて貰った。
ゴクンと飲み込み、竹森が言ってた儀式のことを尋ねてみる。
「……1ヶ月後、私、殺されるんですか?」
若い男は、淡々と恐ろしいことを言った。
「そうだな。それまでの間、お前を高僧の花嫁、すなわち性奴隷として捧げてルシファーを呼び出しやすくするんだ」




