救いと導き 1 9
「……いや……」
ラブホの一室で残忍な殺され方をした女の人を思い出し、私は座ったまま後退りした。
「″いや″ って、俺はまだ何もしてねぇだろぉが」
竹森浩介がグイッと私の手を掴んだ。
「こいつ、何歳だって?」
他の男達に尋ねる。
「さぁ、確か高校生だって聞いたけど。どう見ても中学生だよなぁ」
「どっちにしても安心しろよ、ガキは俺の趣味じゃねぇから。他の奴等がヤってるの見るのは楽しくて絵に描きたくなるんだけどな。特に野郎同士」
竹森の下卑た笑いが地下室に響く。
私の腕を掴む竹森の腕に、例の茶色いアザはなくなっていた。
もう、腕から打つ注射はしてないってこと?
「……わ、私を何のために、ここに?」
腕を見つめる私の目と、冷えたサイコな目がぶつかる。
「決まってるだろぉ? ハロウィンには少し早いけど、生け贄だよ」
――やっぱり。
なんで、それが私なの。
思ったけど、聞かなかった。
「あっちの部屋でやってる最中の儀式見ておくか? 1ヶ月後はお前だからな」
″儀式″……。
それ、悪魔崇拝のだよね?
そんなの見たくない。
竹森の腕を振り払おうにも力が強くてダメ。
無理やり立たされ、他の男達に囲まれるように入口まで連れて行かれた。
「そ、それより……私と一緒にいた先輩はどうしたんですか? 堀先輩も……」
「お前と溺れてた奴のことか。血だらけで運ばれてきた……」
「え」
血だらけ?
記憶がない。
先輩、怪我してるの?
他の男が、「別の部屋でネンネしてるよ。何に使おうか、話し合い中だろう」と答えた。
「じゃあ……堀先輩は、……?」
声がますます震えた。
「誰、堀って」
竹森が面倒臭そうに言うと、「あれのことだろ、コスギのオモチャ……」と、一番太った男が嘲笑った。
オモチャ……。
やはり、滋岡さんの言ってた通りだ。
きっと、ひどい目に遇ってるに違いない。うつ向いて、涙を堪えてると背中を押され、否応なしに前を向かされた。
「ほら、あれが基本的な儀式だ」
乱暴に開けられた扉の向こうに見えたもの。
「……!……」
それは、現代の日本とは思えない情景が繰り広げられていた。
ここよりも、ずっと広い、床は目が痛くなるような白と黒の市松模様。
奥の石段の上に赤い布をかけた祭壇があって、その上には全裸の女の子が寝かされている。
さっき、悲鳴を上げていた女の子かもしれない。
まだ十代前半の女の子で顔も身体もやけに青白かった。
両手足にはフックにかけられたロープが巻き付けられ、身動きとれない様だ。
その子の回りには焦げ茶色のフード付きマントを纏った男たちが集まっている。
男達は、手に金色の聖杯を持っており、それを女の子の足裏にあてがっていた。
「……なに、をしてるんですか?」
「見りゃ分かるだろ? 生け贄の手足から流れる血を飲むために溜めてるんだよ」
竹森が私の腕を掴んだまま興奮した声で答える。
「血……」
よく見れば、女の子の手のひらやの裏には切り傷があった。
「……なんであんなこと」
だから、女の子は血の気をなくして真っ白なのだ。
目は開けてるけれど、もう死んだように瞬きもしない。
「こうやって悪魔に捧げて、血の契約を交わし、サタニストたちは僕となって若返りと富を約束されるのさ」
言いながら、竹森が口舐めずりをするのを見て、ゾッとした。




