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転生陰陽師は呪詛をしたくない【仮】  作者: こうつきみあ(光月 海愛)
七 サヨナラ third
153/225

救いと導き 18

 * * *


 喉の渇きで、ボンヤリと目が覚める。

 右目が痛い。

 ……そうだ。船に乗る前に何か飛んで来て、目が眩んで階段のヘリから落ちたんだ。

 溺れかけたところに、橋本先輩が飛び込んできて……―


 そこからの記憶がない。

 重い瞼を上げると、暗い部屋に寝かされているのだとわかった。

 鼻を蠢かす。

 悪臭は、自分が寝かされているマットからだ。

 起き上がってみる。

 手足の拘束はされていない。

 髪はまだ濡れていたけれど、毛先が乾いて結晶か何か付いて、動けばそれがパラパラと落ちてきた。


 ……あれ……?


 自分の胸元や足元を見て、着ているものが制服じゃないことに気が付いた。

 黒いドレス。

 カーテンみたいな生地に幾層ものレースがついて、まるでドールになったようだ。

 でも、臭い。

 体臭?

 鉄?

 汗?

 色んなものが染み着いたドレス。気持ち悪い。

 誰が着替えさせたの?

 それに、ここ、どこ?


 光が全くない部屋の中でようやく視界が慣れてきて、壁も床もコンクリートうちだと分かった。

 もしかして、地下?

 ……まさか、ここって。

 竹森浩介のアトリエ兼シュピルマン・エンターテイメントの養成所?

  橋本先輩、何処に行ったの?

 心細さマックスになったその時、どこからか悲鳴が聞こえてきた。

 女の子の声だった。


 やっぱり、ここは拉致された子供たちが閉じ込められている地下なんだ。

 て、ことは堀先輩もいる?


 先輩……。


 助け出すどころか、頼れる大人から引き離され先に閉じ込められてしまった。

 絶望的。

 身一つで落ちちゃったから、弓矢もスタンガンも、IP無線機もない。

 私も殺されちゃうのかな。

 悲鳴は、壁の向こうから聞こえた。

 隣にも部屋があるの?

 そっと歩いて壁に近寄る。

 今度はカビくさい。

 こんなところにいたら、鼻がもげてしまう。

 扉とかないの?

 手探りで凹凸を探す。

 あった、ドアノブ。

 引いてみるもやはり動かない。

 外から鍵がかけられているようだ。

 歩いても体力を失うだけ。

 諦めて、寝かされていたマットの上に座る。

 体操座りして、最後に見た橋本先輩の顔を思い出した。

 なんだかんだと言って、やはりあの人は優しい。

 普通の高校生が、ただの後輩のために、海に飛び込んでくれるだろうか?

 正義感。

 もしくは――


「……て、馬鹿みたい」


 こんな時に橋本先輩も、もしかしたら、自分のことを好きかも、なんて思ってしまった。

 でも。

 会いたいな……。

 どーせ死ぬなら、先輩の側がいい。

 両思いになんてなれなくても、それこそ来世で逢えたら……――

 膝を抱えて、また眠りにつきそうになった私の顔を、何か冷たいものがスッと這った。


「ひっ……!」


 はっ、と顔を上げる。

 誰かに頬を撫でられたようだ。

 一瞬、寝てしまった間に人が入ってきていた。

 電気が点いて、眩しさに顔を背ける。

 いくつもの、大人の靴が見えた。


「なんで、こんなの着せてんだよ? こいつはどう見たって着物だろうがぁ」

 

「そんな事言ったって、こんな所に着物なんかないって」


 私に着せるものの話?


「あーぁ、せっかく市松人形みたいなガキが手に入ったってーのに……」


 ブツブツと、上から降ってきた不満そうな声は、何となく聞き覚えがあった。しかし、現実ではない。

 橋本先輩の霊視したものを覗いた時に聞いた声だ。

 恐る恐る顔を上げる。


 腕時計が見えた。

 蛇柄の、派手な――


 やっぱり、この男の人は――


「こいつは、悪魔じゃなくて鬼の生け贄にしたかったのに」


 サイコ的な細く吊り上がった目。

 歪んだ口元。

 左耳の下にある大きなホクロ。


 ――竹森浩介だ。





















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