救いと導き 17
山城は金づちなのか、海水を飲んだのか溺れまいと手足をばたつかせていた。
「や……ましろ、落ち着けっ」
ライフジャケットを着けてるせいなのか、得意なはずなのに上手く泳げない。平泳ぎでなんとか側に寄り、海面を叩く彼女の手を掴んだ。
山城が俺に抱きつけば身体は一気に沈み、頭一つ分も水面に出ない。
必死に立ち泳ぎをしている俺たちのそばに、しぶきを上げてボートが寄ってきた。
救助目的なのかそれとも――
「!」
海面から顔を覗かせれば、ボートの男の一人が銃口を向けているのが見えた。
光の反射で男の顔も、それがエアガンなのか、本物なのか分からない。
「危ないっ!!」
誰かが船から叫んだ。銃声が聞こえた。
本物だ!
俺は咄嗟に山城を抱き抱えたまま、海中に潜った。
ライフジャケットを着けても、高校生二人の体重だと浮かぶこともないが、上手く潜ることもできない。
撃ちまくってるのか、銃声が途切れとぎれに聞こえた。浮き輪が一つ投げ込まれたのが見えて、それに手を伸ばそうとしたら急に身体が軽くなった。
山城が俺から離れたのだ。
正確に言えば、ボートの男に腕を取られ引っぱり上げられていた。
なんで山城をつけ狙うのか。
はじめは、丑の刻参りの邪魔をした神社の娘だからと思っていた。
でも、違うのかもしれない。
「や……ましろっ……」
男二人に引き上げられる山城の身体は、まるで巨大なイカやタコのようにグニャリとしていた。
一人ライフジャケットを纏った俺は、海に潜ることもできず近寄ることもできず、さみだれのような弾丸の標的になった。
「っっ!」
そのうちの一つが俺の肩に当たった。
鈍い痛みと、急速に重くなっていく右半分。海面の油と、俺の身体から流れて出た赤黒い血が混ざり合わずに小さな渦を作る。
「橋本っ!浮き輪に捕まれ!」
だんだん朦朧としてくる意識の中で、舘さんの声が聞こえた。
ロープのついた浮き輪に再び手を伸ばしたら、今度は俺の身体がグッと持ち上げられた。
乱暴にボート内に投げ込まれる。
昼に食ったカレー、吐きそうだ……と思ったら、意識が飛んでいった。




