救いと導き 16
車から降りた紫音さんは、舘さんの方を見て笑っていた。
「陰陽師というより、ターミネーターね。相変わらずイカツイ姿して……」
「紫音さんも船に乗るんですか?」
柔らかに微笑む紫音さんに尋ねると、首を横に振った。
「私なんて行ったって足手まといよー。捕まって豚の丸焼きみたいにされちゃうわ」
冗談のように言ってるけれど、多分そういうことも平気でやる連中なんだろう。
「でも、遠隔で視えたものを教えるわ。あの男の占術だけでは手遅れになるかもしれないから」
原田くんが追加して俺に渡したのはイヤホンとIP無線機。
「品薄で店に残ってたの、これだけ」
「ありがとう……ございます」
皮肉とも取れるメールを送ったのに。
紫音さんは俺を見ると、にっこり笑って言った。
「それも滋岡くんに請求するから壊れるまで駆使していいわよ」
「そろそろ船に戻るぞ。追加した二人の部屋が用意できない場合、明日まで同室になる」
舘さんが山城を見て言うと「構いません!」と、原田がやけに張り切っていた。
「私の貞操狙ってるの、原田くんじゃないの?」
山城に不審な目を向けられた原田が 「まさか!」と大きく手を振る。
「あんな物騒な人が同室で無理っしょ。でも、ちょっと修学旅行みたいで楽しみだなぁ」
「私の半径一メートル以内近寄らないでくださいね」
「そんなんじゃ守れないよー」
呑気な二人を尻目に、紫音さんと舘さんは、俺達に聞こえないように神妙な顔で話していた。
それを見たら、さすがに俺も不安になってきた。
一体、これから何が起きるんだ?
島には無事着けるのか。
「ほら、お前らから先に上がれ」
促され、船の方へ歩いていく。
「あの女の子は、お前がしっかりフォローするんだ」
背後の舘さんが俺に向かって言った時だった。
強い風が吹いた。
階段を上がっていた俺は、一瞬だけ目を瞑った。
次に瞼を上げた時に驚いたのは、何も海上の浮遊霊達が目に飛び込んできたからじゃない。
「山城っ?!」
原田と俺の間にいたはずの彼女の姿がなく、既に海に落ちていたからだ。
水しぶきが上がる海面から、山城が顔を出している。
まだライフジャケットを受け取っていない彼女は必死に何にしがみつこうとしていた。
一体、一瞬の間に何が起きた?
「見逃した!恐らくエアガンだと思う。どこからか彼女の目を狙ってきた!」
舘さんが階段から周囲を見回し、「おい! 救命浮輪!投げろ!」船上の船員に向かって叫んだ。
「それじゃ間に合わない」
俺は背中のナップサックを下ろし、直ぐに海に飛び込んだ。
何が間に合わないって、小さなモーターボートが山城に向かって来ていたからだ。




