救いと導き 14
二人用の船室に入ると、舘さんはソファーに腰掛け、小さなテーブルの六壬式盤で何やら占っていた。
滋岡道中も使っている道具だ。
紙で出来た盤には、
十干(甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸)、十二支、二十八宿、十二神将、四門、八卦と書いてある。
「何を占ってたんですか?」
テーブルの端に買った珈琲を置いて尋ねる。
「この船がいつあの島に着くのか、あと何キロ先のどの方角なのか占っていた。非公式の航路だからな」
占いは何となく信じられない方だけど、今朝の脱線事故を予測したこともあり、それも侮れないな、と思った。
「でも、おみくじと一緒で結果はワンパターンになりませんか?」
「四柱推命や五柱推命と組み合わせると何十億以上の結果が出せる……と、この珈琲は微糖か」
缶コーヒーを一口飲んで、容器をじっと眺めている。
「ブラックの方が良かったですか?」
「いや、俺は珈琲ではカフェオレが好きなんだ」
飲んでいたリンゴジュースを少し噴きこぼした。
「というか、腹が減っただろ? もうすぐ昼飯の時間だ。たらふく食えばいい」
舘さんは、腕時計を見た。
「さっき、案内された食堂からカレーの匂いがしましたよ」
「カレーか。あんまり気分でないな。次に寄る港の売店で竹輪でも買うか」
「竹輪……」
もっと腹の足しになるもの食べればいいのに。
スッ……と立って、冷蔵庫の上に乗せられた小さなテレビを点ける舘さんの後ろ姿を見る。
やっぱり映画のSPのように拳銃とかの武器は持ってなさげだ。
いくら、身体が大きくても、陰陽師として力はあっても、こんな丸腰であの島に挑むのは怖くはないんだろうか?
それとも、何か策があるのか。
無言でテレビをみていた舘さんが不意に言った。
「……金沢港に、紫音が来るみたいだな」
そうだ。
紫音さんが山城を連れてくる。
「俺には紫音さんが何をしたいのかイマイチわからない……俺達を守ってくれるのかと思ったら、神のお告げだとかなんだとかで山城……あ、あの神社の娘さんですけど、この船に連れてくるとか言うし……」
俺に背を向けていた舘さんが、少しだけ肩を揺らした。
どうも笑ってるようだった。
「何かおかしなこと言いましたか?」
「いや、案外幼いところがあるんだな、と思って。君も」
「は?」
「その山城さんは、君を守りたくてわざわざやって来るんだろう。なら、君も彼女を死ぬ気で守ればいい。紫音は一見、雑な性格に見えるかもしれないが、霊能力者としては、滋岡より上だ。同じようにメディアに出て名前が知れた二人だが、紫音は俺と同じように秘境で修行を積んだ身、彼女の言ったことは信じられる」
「じゃあ、滋岡さんは?」
徳は積んでないが魂は――ってさっき言っていたけど。
「……奴は、陰陽道もそこそか極め、霊能力も高いが、心がブレるんだよ。その時その時出会った人間に影響される。人間らしいといえばそうだ。だから、身内に裏切り者が出たというのに気がつかない」




