救いと導き 13
「……あれは、どっちに転んだんですか?」
砂浜でうずくまって嗚咽する滋岡を見て、俺だけじゃなく視聴者も心配してるようだ。
【滋岡さーん、だいじょーぶ?】
【もしかして二日酔いだった?】
【口から妖怪出てね? w】
舘さんは、ふっ……と口を歪めて笑った。
「さぁな。しかし、奴は今から、おそらく下痢になるだろう。それでも全ての毒は排出できない。この件が片付いたら、滝に打たれ松葉茶でも飲ませれば随分と良くはずだ」
「……そ、そうなんですか」
そんな松のお茶なんかで解毒できるのか?
「しかし、あの映った白い砂浜は日本じゃないみたいだったな。あいつは遊園地から南国にでも行ったのか?」
「例の無人島に辿り着くわけないし」
日本の海底にそんなトンネルがあるとは思えないから、きっとKIDSパークからは、そんなに離れていない。
「まぁ、それはあとにして、俺達もとりあえず船に乗るか」
舘さんが【らせんまる】を指差し、再び険しい顔つきに戻った。
船には、船員以外に何かコンテストの入賞特典で見学する子供やその保護者、学生が乗り込んでいた。
それに紛れたものの。
俺はともかく、彼は目立ってしょうがないので「サングラスを外したらどうですか?」と、言ってみた。
「顔を知られちゃ主人を守れまい。名前を捨ててまで陰陽師になったんだ」
舘さんは、船上用にと全員に渡されたヘルメットを被るとなおさら怪しかった。
「名前を捨てる意味は?」
「社会から隔離されれば名前などいらない。実際、スマホもテレビも電気もない所で修行してきた。身分証明など要らない世界だ。それに、名前など呪いの道具に使われるからな」
「本当に仙人みたいな生活だったんですね」
じゃあ、今持ってるスマホやタブレットは主人の竹森隆からあてがわれたものなのかな。
車の免許はどうなってる?
様々な疑問点が湧いてくるけど、独特な別社会が世の中にあるのだろうと、それ以上尋ねなかった。
船が離陸を始め、 調査海域に入るまで、と船長から船内案内があった。
「俺は船室ですることがある。お前は子供達と一緒に船内見学でもして時間を潰してろ」
すっかり俺を子供扱いだ。
しかし、興味がないわけでもないので、船が大好きだという子供達の後をついて行った。
船の心臓部分である機関室や機関制御室はヘルメット、プラスライフジャケットを纏ったせいもあり、熱くて仕方なかった。
船内には売価落としされた自販機があり、硬貨1枚でジュースが買えた。
珈琲とジュースを購入し、船室に向かう。
あの人でも、空腹でいきなりカフェインは船酔いするか?
船酔いするターミネーターを想像したら笑ってしまう。
……そういえば、腹へってきたな。
朝飯、なんか買っておけば良かった。
母さん、俺の分も当然作ってたんだろうな。
きっと、今頃はめちゃくちゃ心配してるだろう。
家出じゃないよ、と電話した方がいいのかな。
迷った挙げ句スマホを取り出した。
電話をかける前に、紫音さんからメールが届いていることに気が付く。
【あなたのお友達、港まで送り届けることになったわよ】
見て、また思い出した。
そうだ。
山城。
【なんで、あいつに船と寄港教えたんですか? 災難から回避できるように滋岡さんから頼まれたんじゃないですか? 】
子供達を守ると頼まれた、とそう言わなかったか?
即返信したら、紫音さんからもすぐに返事がきた。
【私からみたら、″子供達″とは、全ての子供を意味する。あなたやあなたのお友達だけが守るべき対象じゃないのよ】
どういう意味?
【では誰を守るつもりなんですか?】
【拉致された子供たちがいるのは何もあの無人島だけじゃない、日本のあらゆる島や地下に囚われて犠牲になっている。あなたやお友達を送り出すことで、救われる命が多くあると神から言われたの】
神。
何の神だ。
この人は、何を信仰して神だとして崇めてる?
舘さんの話は聞いたことないのか?
【じゃあ、俺、もしくは友達が犠牲になる可能性があっても、子供たちは助け出されるということですね?】
滋岡からの呪解がなければ、そもそもあと半年の余生。
でも、山城は違う。
彼女の命と、見知らぬ子供達の命を天秤にかけるなんて俺にはできない。
皮肉をも込めたそのメールには返信がなかった。




