救いと導き 11
「扉……? 扉って?」
パンドラの箱みたいな話かと思ったら、
《KIDSパークの地下通路の入口だよ》
「あぁ!」
生配信で見た、前で霊がウヨウヨさ迷っていた、重そうな鉄製のドアのことだった。
「どうやって……そして、それはどこに繋がるんですか?」
《元従業員が鍵を持っていて、貸してくれた。ずっと子供達の行方が気になっていたんだと……。で、入って歩いて行ったら…あの世とこの世の境目みたいな所を抜けて出たんだ》
あの世とこの世の境目……。
それって死んだ人に会える京都の戻り橋みたいなところだろうか?
「地獄……のような所に出ました?」
地下の想像がつかない。地下鉄より狭いのか。暗いのか。
《いいや……》
と、溜息のような声を出した滋岡は、次に溶けそうな声で言った。
《まさにパラダイスみたいな、……キラキラした所に出た》
滋岡は、夢現な状態を疑うほど、いつもと様子が違っていた。
「滋岡さん、キラキラって何ですか? どこで何を見てるんです?」
地下通路を通って、それこそ地図に載っていないような場所へ出たなら、ぜひ動画の生配信をしてほしいのに。いつもの彼なら、それくらいするはずなのに、
「滋岡さん、聞いてま……」「代われ」
いつの間にか戻ってきてた舘さんが、俺からスマホを取り上げて尋ねた。
「滋岡、酒を飲んでるのか? お前は飲めない体質だったよな?」
え?
そうなの?
彼のこと詐欺師とか言ってる癖に、そんなこと知ってる仲なのか?
《……飲んでない、はず、だけど気分いい……いや、悪いな……まるで酔ってるみたいだ》
電話で滋岡の声を聞きながら、車のタブレットを取り出し、ネットの動画配信を確認する。
「いきなり、奴のチャンネルで生配信が始まった。こんな醜態を視聴者に見せるなんて、本人の意思ではないだろう」
「どういうことですか?」
「薬……もしくは、ポロニウムを盛られたかもしれん。内輪に裏切り者がいる」
ポロニウム……?
なんだ、それは。
「なんですか、それ、酔っ払ったみたいな感じになるんですか?」
「俺も飲んだことないからわからん。でも、海外ではスパイ工作員や邪魔な政治家を暗殺する常套手段だ。体内被爆を起こし、飲んでからじわじわと体調を崩す。意識が朦朧とし風邪のような症状から始まって、数日後、急変して死ぬらしい」
「えー!?」
俺は、舘さんのタブレットを食い入るように見た。
急に始まった滋岡道中の生配信に、視聴者が驚いている。
【えw 予告なしで何が始まるの?】
【滋岡さん、ふらついてませんか?】
【それ、どこ?】
顔色が赤黒く変色し、虚ろな目をした滋岡は、スマホを片手にネットを通して異様な雰囲気を醸し出す。
カメラアングル!
そのドアップのせいで肝心な背景は見えない。
「滋岡、スタッフに言って配信やめさせろ」
《いや、せっかくだから、ね? この白い日本の天国みたいな景色、見せないと》
だから、映ってないって。
「滋岡さん!病院行って!」
スマホから叫ぶ。
「もし、ポロニウムなら解毒剤はない」
非情にも見えた舘さんが、突如、タブレットを前に置き、電話の滋岡に指示をした。
「今すぐ自身で破邪の法を切れ」




