救いと導き 10
「見ろ、俺らが乗る予定だった新幹線、脱線事故を起こしてる」
目を覚ました途端、舘さんがスマホのネットニュースを俺に見せて驚かせる。
「……え、」
まさか。これ、予測してた?
「撤去作業に六時間だと」
舘さんは、スマホを仕舞うと、既に満車になるつつある港の駐車場に車を停めて海の方を見た。
俺も眠たい目を擦りながら、客船フェリーの後ろについている【らせんまる】を眺めた。
あれが、行くのか。
悪魔の巣へ。
「船員に話をつけてくるから、ここで待ってろ」
頼もしい一言を残して港に歩いていく舘さんを見ていると、ナップサックのスマホが鳴っているのに気がついた。
「着信がいっぱい……」
今朝、母さんと父さんから。
そして、原田くんと、山城からも。
不在着信あとの怒濤のメール。
【こんな朝早くから、どこに行ったの? 今日は終業式でしょ? 他に何かあるの?!】
【千尋が家出したって母さんが心配してるぞ!】
原田くんからは、
【例の参議院議員がヘリコプターで今日にでも視察するって!それ、滋岡の動画で配信できたらいいんだけど!って!凄くない?】
警察も当てにならない中で、視聴者が認識してくれたら、それだけでパワーになるなと思った。
ついさっきの電話は、山城からだったらしい。
【橋本先輩は、秘密主義過ぎます。さっき、紫音さんに連絡取って、先輩が乗る船の寄港予定教えて貰いました】
なに。
俺は、さっと血の気が引いていくのがわかった。
この船。
沖に出てからも、また、どこかに寄るのか。
そこに、山城は来るつもりなのか?
やめてくれ。
【来るな。お前は終業式終わったら大人しくしてろ。もしくは滋岡からの動画配信を原田くんたちと待ってろ】
自分でも驚くくらいのスピードでメッセージを打って送信。
それは直ぐに既読になったものの、
【いやです】
アッカンベーをした豚のスタンプが送られてきた。
「……こいつ……」
電話で説き伏せようとしたら、ブルブル!と手のひらでスマホが揺れた。
もしや、母さんか? と、一瞬、気を引き締めたら、それは滋岡からだった。
きっと大事な要件に違いない。
俺は一度唾を飲んで電話を取った。
「もしもし……おはようございます」
《おはよう……》
聴こえてきた声は、やはり、まだどこか痛そうだった。
《……橋本くん。俺は扉を開けてしまったよ》




