救いと導き 7
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紫音さんが紹介してくれた ″本物の陰陽師 ″ というのは、やはり、竹森隆のSPの中に紛れていた専属陰陽師だった。
明日、いや、正確に言えば今日か……。
俺と一緒に調査船に乗り込んでくれるという。
彼は陰陽師としての力だけでなく、武術にも長けているゆえ、あのように護衛の形でそばにいるのだと。
そんな彼が、古くからの知り合いだとはいえ、紫音さんに頼まれたからと、主人を裏切るような行為に出たのは何故なのか。
そういった話をする機会もないまま、某所にて朝の五時に待ち合わせをすることになった。
現在、7/19(月)の午前2時。
俺は、軽く身支度をして部屋を出る。
本当なら、明日まで学校に行けば夏休みだ。
高校最後の部活や、両親との旅行も予定されていた。
しかし、それも、もうなくなるかもしれない。
家を出る前に、両親の寝室に向かった。
両親の寝室に入るなんて、幼稚園の時以来かもしれない。
ドアをそっと開けると、室内の照明は真っ暗ではなく、常夜灯がついて僅かに明るかった。
二人はサイドテーブルを挟んで、それぞれセミダブルのベッドで眠っている。
父さんの大きないびきが、俺の足音をかき消す。
時々、「っ……んぐ」と、呼吸が止まるから母さんが無呼吸症候群を心配してたっけ。
この頃、顔回り、肥えてきたんだよな、と本人も気にしてた。
俺が小さい頃、父さんの顔はもっとシャープだったんだけどな。
順調に中年太りしている。
母さんを見ると、髪にカーラーを巻いてそれが邪魔にならないように工夫して眠っていた。
そういえば。
毎日、どんなに朝が早くても、髪や身だしなみが乱れたところを見たことがない。
完璧主義な性質。
そんな母さんの横にある飾り棚には、家族全員で写ったものの他に、俺がまだ赤ん坊だったり、ヨチヨチ歩きの頃の写真が飾ってあった。
『小さいときは、あんなに可愛かったのに』
何も知らなかった頃は、普通に母さんに甘えていられた。
『もう、あの千尋は、いないのね』
余計な思い出を増やして、その時が来たとき、悲しませてはいけないと子供らしい子供でなくなった俺は、可愛くなかったかもしれない。
母さんの中の″橋本千尋″を、この頃で止めてしまった。
ずっと、淋しい思いをさせて、ごめん。
そして。
最後まで、親不孝でごめんなさい。
俺は、祈るように部屋に結界を張って両親の部屋を出た。
俺に何かあっても、この人達に悪の手が及びませんように。
どうか、俺がいなくなっても、二人が悲しみに耽ることがありませんように。




