救いと導き 3
水、火、災難?
「な、なにか事故に巻き込まれるってことですか?」
不吉過ぎる。
紫音さんは頷き、
「学校でもトラブルに巻き込まれるし、プライベートでも……危ない目に遇う。貞操も気をつけて」
とんでもない予言を放って私を心底震えあがらせた。
「て、貞操って貞操って」
と、何度も繰り返したのはオカルト研究部の部員たちだ。
「でも、救いの手に導かれるんですよね?」
反して、相変わらずクールに内容を確認する橋本先輩。
「そうね、一体、正義のヒーローは誰なのかしらね」
何故か原田くんはガッツポーズをしている。
「問題は、一番、難が強く出てる、あなた。橋本くん」
紫音さんの表情が今までとうって変わって険しくなった。
「あなた、船に乗る気でしょ?」
船?
まさか。
橋本先輩、あの無人島に向かうつもりだった?
皆が先輩に視線を移す。
「……まだ決めてたわけじゃないです」
橋本先輩は伏せ目がちに答えて、ちょっとばつが悪そうにしていた。
「その船は確かにあなたの望む所にたどり着くし、探し人に会えるかもしれない。でも」
……でも?
「あなたは間違いなく殺される。それも呪い通りなのかしらね」
紫音さんは、デザートのアイスクリームを持ってきたウェイトレスに、ニコッと微笑んだあと、「一人は危ないわ、一人は」と付け加えていた。
「じゃあ、俺らがついていけば、橋本くんは、死なずに済むんですか?」
頼もしき原田くんに反して、部員二人はしきりに首を横に振っている。
「普通の子供がいくら束になったっておんなじよー。やっぱり連れていくなら陰陽師がいいと思うわよ。敵陣にも似たようなのがいるみたいだから」
陰陽師。
それはやはり滋岡道中だよね?
「でも、滋岡さん、呪いかけられて体調不良みたいなんですよ」
電話の声は本当に具合悪そうだった。
「きっと電磁波で攻撃されてるんですよ」
原田くんが確信めいて言ったそれを、紫音さんは、「そうかもね」と軽く受け流し、
「彼が統合失調症だと診断されるまで攻撃を続けるかもしれないわね」
とても恐ろしいことを言った。
じゃあ、他に誰がいるというのだろう?
″本物の陰陽師″ ってどこにいるの?
死ぬと言われても橋本先輩は、落ち着いた様子で何かを考えていた。
橋本先輩は、十八歳になる前に、やっぱり死んでしまうのだろうか。
それはやだ。
何とか阻止しなきゃ。
「……橋本先輩、お願いです。一人で行かないでください」
店内に流れる音楽にかき消されそうなほど、か細い声でお願いした。
橋本先輩は、私を見ないまま、子供みたいにグラタン皿の端の焦げたチーズをスプーンでつつきながら話した。
「滋岡からも《一人で船に乗るなよ》と言われていたけど、逆にそれが俺の宿命のような気がした」
仕草とは逆に、声と言葉には曲げない強さを漂わせていた。
「……宿命って。死ぬのが宿命なんですか? そんなの全力で回避するのが当たり前じゃないですか? そのために紫音さんと先輩を滋岡さんが結びつけたんじゃないんですか?」
「そうかもしれない。でも、手っ取り早くあの島に行くにはそれしかない」
先輩は、昨夜調べたことを教えてくれた。
過去数年の航路データを調べてみたら、竹森財団の海洋研究開発の調査船【らせんまる】が、例の無人島(正解にはそうじゃないが)に着岸する可能性が高いのが、7月と9月だったのだそう。
その前に一般市民が見学する機会が設けられる時があった、と。
それが明日。
都内の港から出る予定になっていて、「何とか船内に潜り込めないかと考えていた」と話した。




