表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生陰陽師は呪詛をしたくない【仮】  作者: こうつきみあ(光月 海愛)
七 サヨナラ third
137/225

救いと導き 2

 紫音さんは、体調不良の部員を目の前に座らせ、その顔を暫く眺めたあと、


「あなた、気が弱いのよ」


 と、いかにも柔らかそうな手を両方とも広げ、パン!!と思い切り叩いた。

 店内中に響くほどの大きな音に、部員はビクッと体を震わせたあと、キョトンと不思議そうな顔をしている。


「あ……れ、なんか、頭痛が無くなった」


「え、あれだけで?」


 隣の席で見守っていた原田くんたちは信じられない、と顔を見合わせていた。


「呪いの餌は恐怖心だからな」


 橋本先輩は、コーヒーを飲みながら至って冷静。


「あとの三人は大丈夫そうね。何かお守りでも持ってるのかしら?」


 紫音さんは、付き人がとってきたメロンソーダを受けとり、美味しそうに飲み始めた。


「三人は、って、あと一人は呪われてるってことですか?」


 原田くんが恐る恐る尋ねると、紫音さんはストローを咥えたまま、橋本先輩を指差した。


「え?!」「橋本くん?」


 私達がジュースを噴き出しそうになったのに対し、橋本先輩は、相変わらずクールな表情でコーヒーを飲んでいる。


「そ、そんなら解いてやってくださいよ、パン!!ってさっきみたいに!」


 原田くんが唾を飛ばしながら頼んでも、紫音さんは、軽く、


「そんなもん解けないわよ、千年前の呪いなんて」


 と手を振っていた。


 せ、千年……?


 ぽかん、と口を開けたままの私達に向かって、橋本先輩は、メニューを広げて見せる。


「そんなことより、滋岡に請求していいらしいから、好きなもん食おうぜ。腹が減った」

 紫音さんは、にっこり笑って、


「そうよ、食べなきゃ損よ。滋岡くん儲かってるんだからどんどん食べなさい」


 と、ビーフステーキセットとデザートにアイスクリームまで頼んで付き人に、「先生、カロリーが……」と心配されていた。


「ところで、紫音さんは、今日はこれだけの為に出向いてくださったんですか?」


 隣のテーブルで、ほくほくとステーキ肉を切り分ける紫音さんに声をかける。

 大きな目が私の顔をまんべんなく捉えて、何もかも見透かされそうでドキリとした。


「あなた、前世は巫女だったわね」


 問いには答えてもらえず、いきなり前世を告げられ、私は少し不機嫌になった。


「そんなの適当に言えます」


「いや、山城の前世は巫女だよ」


 隣でグラタンを頬張りながら、橋本先輩までおかしな事を言う。


「すげ、橋本くん、そんなもんまでわかるの? じゃあ、俺らなんだった?」


 部員たちのそれには答えないで、橋本先輩は、紫音さんの方を真っ直ぐに見た。


「それで、俺達がすべきこと、これから起こり得ること、もう視えてらっしゃるんですよね?」


 紫音さんは、頷きながら残りの肉を一気に食べてしまうと、まず原田くんを見た。

 シワやたるみがなければ、物凄く可愛い顔立ちであったろう、紫音さんの大きな瞳。

 一体、何が見えたのだろう?


「″羊たちは逃げ場を失い、一生出られない柵の中で飢え死ぬ″」


 さっきまでの気さくな近所のおばちゃんみたいな口調から、急に予言者らしい、お告げみたいな事を口にするから、空気が一変した。


「そ、それ、どんな意味が?」


「直ぐに部活のブログを閉鎖しなさい。さもないと学校ごと閉鎖させられたり、吹き飛ばされるわよ」


「えー?!」


 そんな大胆な攻撃もありなの?!


 原田くんは額に汗を滲ませながら、「ちくしょ、しょうがないな」と、スマホからブログの操作を始めた。


 次に紫音さんが見たのは私だ。

 何を言われるのかと思うと、ぞくぞくして寒気がした。

 紫音さんの薄いけれど、愛嬌のある小さな口が静かに開き、また不気味な予言を残す。


「″水、火、災難。いずれも救いの手に導かれる″」







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ