愛と呪縛 19
神職の格好をした俺を、護衛の男達も、竹森隆も特に不審がることなく、気にも留めてない様子で見過ごす。
ただ、少し遅れるようにして拝殿を出てきた山城の父が、ギョッとして俺を見た。
「竹森さん」
名前を呼んでようやく護衛たちが俺に警戒を示す。
竹森隆本人は、まだ子供の俺を穏やかな目で見て、「なにかな?」とこたえてくれた。
防犯カメラの動画だけではわからなかった、″善″ のオーラに一先ず安堵しながら、つとめて落ち着いて話した。
「あなたのご子息である、竹森浩介さんのことでお話があります。というか、彼に逢わせてほしい、友達の命が掛かってるので」
まるで仏のような穏やかな顔が、息子の名前を聞いた途端に、暗く翳っていく。
「は、橋本くん、君、勝手に入ってきて何て不躾な……」
俺を追いはらおうと、山城の父が手を伸ばすも、
「お父さん! 邪魔しないで!」
「お友達の命って何のことかな?」
娘の阻止と、竹森隆の返事で、ひゅっと小さく肩をすぼめていた。
「掘くんという、弓道部の仲間ですが、少し前にここであるオカルト集団に拉致されて行方がわからなくなっています」
「オカルト集団……?」
竹森隆の眉間が寄り、視線を右にずらし何か考える表情を見せた。
祓いを済ませたばかりの彼は無防備で結界は消えている。
俺は、背後にいる強い守護霊を視ながら続けた。
「赤い蛇のマークの【ゴールド・スター】の一味だったと思われます。ここにいる彼女も、そのマークの入った車に拉致されそうになりました」
竹森隆の視線が山城に移る。
山城の父は、何か言いたげだったが黙って口を出さなかった。
「犯人が、私を、【ジュピルマン・エンターテイメント】の養成所に連れていくって言ってたんです。たぶん、掘先輩もそこにいると思うんです」
山城に続けて、俺はまだ証拠もないのに、さもわかってるような口振りでトドメを刺す。
「その養成所って、ご子息のアトリエと同じ建物内にありますよね? 日本地図には出てこない無人島に。その施設を建てたのは、竹森隆さん、あなたですよね?」
竹森隆は口をつぐんだ。
だが、しかし、彼の守護霊は教えてくれた。
人里離れた離島の山奥に、薬中の息子のために、芸術に没頭できるアトリエを建てたのは、間違いなくこの竹森隆だ。
しかし、そこは、息子の竹森浩介がメンバーとなっている【ゴールド・スター】の悪の巣と化してしまった。
芸能人、政府人、あるいは海外のセレブまで足を運ぶ秘密の施設。
そこで何が行われているか、この竹森隆も見てはいなくても知ってるようだった。
「そこに行くにはどうしたらいいんですか? チャーター便ですか? それとも福井県のKIDSパークの地下から繋がる道があるんですか? 」
竹森隆は身の置き場がないといった様子で踵を返し、そのまま去ろうとした。
「待って!」
追おうとした俺の前に一人の護衛の男が立ちはだかっても構わず続ける。
「ご自身、生霊飛ばすくらい息子の事を思う愛情があるくせに、その息子に殺された子どもや親の気持ちはわからないんですか?」
竹森隆は、日本人にしては長いその足を止め、少しだけこちらを振り返った。
「あなたは、こんなに護衛をつけなきゃいけないほど命を狙われ、最強の陰陽師を雇わなきゃいけないほど呪われている。息子の堕落と廃人化は、単なる偶然だと思ってますか?」
「黙りなさい!」
ここまで言うと、竹森隆は、大きく目を見開いて俺を一喝した。
「それ以上、言ってはいけない。君はまだ若い。そんな妄言を誰かが聞いたら危険を背負うことになる。普通の生活を送れなくなる」
山城の父や、滋岡と同じ事をいう。
″普通の高校生が一番だ″
″知らないほうが普通に暮らせるってこと″
「誰かって誰ですか?」
原田が言ってた、悪魔崇拝組織より上の層やつか。
「俺は命なんて惜しくない、社会的抹消も怖くない」
どうせあと数ヶ月で現世での肉体は死ぬんだ。
「あなたの息子がサタニスト達にマインドコントロールされて、実の父親に呪いをかけている。それも知っていて野放しにしてるんですか?」
ここで、″丑の刻参り″をしてた連中が呪った相手は、この竹森隆だ。
この前、息子の竹森浩介の画像で霊視を行った時にそれも判明した。
「……何のことかわからないな……」
竹森隆は、気の毒になるほど、淋しそうな声を出していた。




