愛と呪縛 17
駐車場には、職員の自家用車が数台停まっているだけ。
「家に電話してみたらどうだ? ……って電話ないのか」
俺がスマホを差し出すと、「スミマセン……」と山城が受け取って電話をかけていた。
「もしもし? え、そうなの? タクシー? そんなのもったいないよ。バスで帰るよ、うん、えー? はい、わかったよ。じゃあね」
山城が仏頂面で電話を切り、「ありがとうございました」と俺に返す。
「お父さん、迎えに来れないのか」
「はい。なんか、急なお祓いのお仕事が入ったそうなんです。政治家だって」
政治家。
もしかして、例の竹森じゃないのか。
「どこで?」
「うちの神社だと思います。なんか忙しい音が聞こえたので」
「そうか。なら、俺も送りがてら行く。タクシー呼ぼう」
「え、でも、先輩、自転車は?」
「折り畳み式だから荷室にのせられる。それに、俺もお前んちまで自転車漕ぐの、ちょっとツラい」
捻挫を甘くみていたせいか、なかなか痛みが引かない。
「うちにきて、どうするつもりです?」
「もし、元財務大臣の竹森隆なら息子の悪行をすべて話す。当然、知ってるかもしれないけれど、それで反応を見る。霊視もする。前から思ってたけど、彼に最強の結界を張っている陰陽師がいるはずなんだ」
″本物の陰陽師″。
それが滋岡道中でないなら、そいつはどこにいるんだ?
タクシーを呼び、後部座席に一人分空けて座る。
「あのー、質問していいですか?」
山城がちょっと首を傾けて納得いかない顔をしている。
「なに?」
「その政治家ですけど、最強の陰陽師がついてるのに、うちみたいな神社でお祓いする必要があるんですか?」
「前も話したかもしれないけど、陰陽師と神職は、今は同じような扱いされてるが本来は役目が違う。陰陽師は悪霊や呪いを退散させたり解いたり、もしくは呪ったりするけど、本格的なお祓いは仏神に支える者の役目なんだ。竹森は、常に誰かに呪われてるのかもしれない」
「あの悪い息子のせいですか?」
「さぁ……政治家って嫌われることはあっても好かれることは少ないよな」
神社の前に着き、タクシーを降りようとしたら、スマホに滋岡からメールが届いた。
【しばらく福井に留まるが、変わりはないか。もし、何か攻撃を受け始めたら、この貼り付けたリンク先の霊能力者に協力を頼むといい。″彼女″はとても正義感の強い女性だ】
″本物の陰陽師″ と知り合いだという霊能力者は、女性だった。
意外だ。
あとで、クリックしてみよう。
「なんか、拝殿も本殿も、前に物々しい人達が沢山いるんですけど」
山城がびびるほど、映画でしか見たことないような黒スーツ姿にサングラスの男達が大勢入口に立っていた。
「SPって、ホントにいるんですね。アメリカみたい」




