愛と呪縛 16
「次は、【迷うな羊】のアカウントだな」
原田が言うとおり、そっちにも同じ奴からDMが届いている。
「開けるなよ」
「わかってるよ」
トイレから戻ってきた部員が、血の気をなくして、「もう帰る」と言ってきた。
「大丈夫か?」
効かないかもしれないけど、と【刀印護符】を渡す。
呪いを返す、ではなく解くお守りだ。
「これを一人の時に、左手で刀印を作ってそのまま護符に書かれてる文字や符形を思いを込めてなぞればいい。あとは人に見られないように持っていれば……」
「ほ、ほんとにこんなんで守られるのか?」と、青ざめたまま部員が受けとる。
「気持ちの問題。ネガティブにとらえたら何事も効かない」
そもそも、マジナイもノロイも、基本は希望や恐怖の植え付けなのだから。
夕方になる頃、かなり拡散はされたけれど、オカルト研究部と部員たちのアカウントは制限を受けてしまった。
プライバシーの侵害とやらのルール違反。
「凍結よりマシだけど、にしても、あちらがわの動きは早いなぁ。すげーネットワーク」
「呪術師も手下に。怖いもんなしだな」
さっきと同じ護符を全員に渡し、今日は帰ることにする。
「山城は、女だから、なぞるときは右手でな」
「あ、はい……」
山城が受け取って、不安そうな目で俺を見た。
「ん? どした?」
「なんか、自分がいる世界が怖くなりました」
「……まぁ、そーだよな。拉致やら呪いやら、偽物やら、……都市伝説、全部ぶっこんだようなことばっかだから」
「私たちみたいな一般人は簡単に殺されて、犯人たちは守られてる。悪魔崇拝組織より、警察より上の層の人たちって、なにがしたいんですか?」
「……さぁ、俺にもわからない」
それを知らないほうがいい、と滋岡は言ったんじゃないか。
「あのー、ちょいお尋ねしますけどー」
俺たちの後ろで戸締まりをしていた原田が、オホン、とわざとらしい咳払いをした。
「お二人って、付き合ってるの?」
「え?」「は?」
「なんか凄い″絆″ を感じるんだけど」
原田の眼鏡に夕陽が反射し、ギラっと光る。
「そんなんじゃありませんよ!」
全否定する山城が耳まで真っ赤になっていた。
「あ、じゃあ、例の神社で行方不明になった掘くんと付き合ってます?」
「それは全くの誤解です!」
山城の口調が強かったせいか、原田はもう何も言わなかった。
校舎を出て、駐車場手前のところで山城がキョロキョロと辺りを見回す。
「あ、れ、お父さんの迎えの車がない」




