ひとを呪わば穴ふたつ 2
「『源氏物語』にもみられるように、一見表向きは華やかな世界ですが、裏を返せば出世のために人を呪い、汚い手を使い、他人を蹴落としてまで権力をつかむ泥沼の時代でした。自分の能力以外の実力で定められる運命、摂関政治に代表されるような身内での政治機構、これらの窮屈な世の中が貴族の心を縛り付け、恨みを生んだといえるでしょう。それは今の世も変わらないのです」
大好きな古典を扱った授業。
クラスメートのほとんどは退屈そうにしているけれど、私は平安時代の物語が大好きだった。
先生の光源氏のモデルだと言われる藤原道長の話を聞きながら、何となく頭には、橋本千尋先輩が頭に浮かんだ。
あの人って、あっさりしたイケメンというか、和風な感じが“光源氏”そのものだと思う。
着物とか着せたら絶対に似合いそう。
そういえば、あの試合の時から、まともに姿を見ないけど、橋本先輩は元気なのだろうか?
光源氏のせいじゃないけど、橋本先輩に会いたくなった。
休み時間。
「リリ、授業中、なんかニヤニヤしてなかった?」
加奈に言われて、またやってしまった、と思った。
好きな話や推しのことを思い浮かべると、私の顔はとてもだらしなくなるのだ。
「そんなことないよ、真剣に聞いてたし」
「あんなトローい話、よく真剣になれるね。私は欠伸ばっかしてたわよ」
「うん。見てた」
笑う私達の横を、スッ……と黒い影が通り過ぎる。
クラスメイトの朝美だ。
「朝美、昨日、インスタ更新してなかったじゃん!」
自分の席に着く朝美を追って加奈が尋ねるも、朝美は黙っていた。下を向いてボンヤリしてるように見えた。
「なに、あれ。感じ悪っ」
シカトされて腹を立てているのは加奈だけじゃなかった。
「ねぇ、今日の朝美、なんか変じゃない?」「急にお高くとまってんの」
本来の朝美は美人でスタイル良くて、明るくて、どこにいても目立つ女の子。
クラス、学年、いや、もしかしたら学校一の人気者かもしれない。
ツイッターやインスタのフォロワー数も凄くて、一度投稿すれば瞬く間に脅威のイイネがつく。
まさに学園のアイドルという感じ。
その朝美が近頃、どういうわけか、とても暗いオーラを放っているのだった。




