愛と呪縛
あれから何の音沙汰もないってどういうこと?
拉致されそうになり、その犯人たちが乗り捨てた車もあるというのに、警察から事件に関しての報告はなかった。
スマホだって奪われたのに。
普通、警察の権限でスマホの現在位置特定できると聞いた事あるけど、それに関しても情報なし。
お父さんの送迎で学校へ行き、当然、部活も行けず、私は窮屈な生活を強いられることとなった。
「じゃ、りり、四時過ぎに駐車場で待ってるからな」
「そんなに早く来なくていいよ」
と、言ってはみたものの、きっと四時前には待機してるに違いない。
「おはよ、りり! パパの送迎つき?」
校門前で加奈に声をかけられる。
「過保護すぎるよね」
「しかたないよ、声かけ事案の当事者だもん」
「にしても、部活もダメっておかしいよね……」
つまんない、とぼやいていたら、横を自転車がスッと通り過ぎていく。
「あ! 橋本先輩!」
私の声に気が付かず、サラサラとした髪をなびかせてながら、相変わらず風のように自転車置き場に向かっていた。
「加奈、ちょっと先輩んとこ行ってくるね!」
「グッドラックー」
親指で励ます加奈を置いて、駆け足で寄って行く。
今、話さないとチャンスがない。
昨日渡した犯人たちの似顔絵や【シュピルマン・エンターテイメント】というヒントから、堀先輩の居所分かってないか確かめたかったのだ。
「はし……」
見つけて声をかけようとしたら、また邪魔が入る。
女子ではない。
何となく、橋本先輩とは合わなそうなオタクっぽいメガネの男子が、「よぉ」と親し気に話しかけていた。
先輩、近頃、交遊関係広げすぎ!
いけない、と思いながらも聞き耳を立てた。
「昨日、橋本くん、陰陽師のライブ配信で何かやらかしただろ?」
え、今、なんて?
「原田くんも見てたのか」
橋本先輩がちょっとバツが悪そうに答えている。
「電磁波での洗脳、まさか陰陽師相手に試みたんじゃないだろうね?」
「実はそう、ありがとう。効果あったよ」
「マジ!? え? その話詳しく聞かせてくれない?」
メガネくんがぐわっと先輩に近寄り食いついている。
「わ、私にも聞かせてください!」
つい声を張って二人の背中に投げると、驚いた顔で振り向いた。
「山城……いつからそこにいたんだ?」
「そんなことより、橋本先輩ってば、ちゃっかり滋岡道中のYouTube番組に出たりしたんですか?」
何いってるんだ、とちょっと冷ややかな目をした先輩の横で、原田というメガネくんが頬を赤らめている。
「……どうした、原田くん、日射にやられたか?」
橋本先輩が太陽を見上げるも、メガネくんは口を開けたまま首を横に振っていた。
「ち、ちがうんだ」
なんかどもってるし。
「や、山城りりさん、弓道部ですよね? じ、じつは、かなり好きなタイプの女の子で」
「え」「は」
橋本先輩と顔を見合わせる。
「あの、誰かと勘違いしてませんか? たとえば悠里とか」
可愛い友人の名前を出してみるも、
「あ、俺、美人には興味ないので」
そこは、メガネを指で引き上げながらハッキリと言った。
それ、どういう意味!?




